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札幌地方裁判所 昭和34年(ヨ)87号 判決

申請人 五十嵐泰 外三名

被申請人 王子製紙株式会社

主文

申請人らの申請を却下する。

申請費用は申請人らの負担とする。

事実

第一、当事者双方の求めた裁判

申請人ら―「被申請会社が申請人らに対して昭和三四年三月二四日になした解雇の意思表示の効力をいずれも停止する」との裁判。

被申請会社―主文同旨の裁判。

第二、申請の理由

一、被申請人王子製紙株式会社は肩書地に本社をおき、北海道苫小牧市及愛知県春日井市にそれぞれ工場を設け従業員約四、七六〇名(内苫小牧工場は約三、二九〇名)を雇用する紙類、パルプ類及びその副産物の製造加工販売等を営む会社である。

二、(1) 申請人五十嵐泰は昭和一四年九月被申請会社に入社し、右苫小牧工場原質部調木課調木係従業員として勤務していた。

(2) 申請人田村茂は同二七年八月二一日被申請会社に入社し、右同工場原質部調木課調木係従業員として勤務していた。

(3) 申請人荒田俊夫は同一一年一二月二一日被申請会社に入社し、右同工場汽力部汽罐課第一汽罐係従業員として勤務していた。

(4) 申請人荒正は同一四年三月一日被申請会社に入社し、右同工場原質部抄取調成課抄取係従業員として勤務していた。

三、ところが被申請会社は昭和三四年三月二四日申請人らに同会社の就業規則に定める懲戒事由があるとして申請人五十嵐、同田村、同荒田に対しては懲戒解雇を、同荒正に対しては諭旨解雇をする旨通知した。然しながら右各解雇はいずれも申請人らには懲戒解雇を受けるべき事由が存在しないのになされたものであるのみならず、右の解雇には後記第六各記載のとおりの事由があるから、右の解雇は無効であり申請人らは依然被申請会社の従業員である。

四、然るに右通知以後被申請会社は申請人らを同会社の従業員として認めないので申請人らは被申請会社に対して右解雇無効確認、賃金請求の訴訟を提起すべく準備中であるが申請人らは賃金生活者として、賃金を受けなければ生活を維持できないことは明らかであり、且つ、それぞれ家庭をもち社会的にも安定した生活をなし殊に申請人五十嵐は苫小牧市々会議員、同荒田は教育委員であり、また同荒は市会議員の立候補準備中のものであるから右解雇の通知によりそれぞれ社会生活並びに名誉について甚大な損害を蒙つており且つ右本案訴訟の終了を待つてはこれを回復することができないので本件申請に及ぶ。

第三、申請理由に対する被申請会社の答弁

申請理由一、同二は認め、同三中解雇事由がないとの点は否認し、その余の無効事由の点は後記第七記載のとおり争い、その余を認め、同四は申請人らを被申請会社の従業員と認めていない点は認めるがその余は不知。

第四、被申請会社の解雇事由に関する主張

申請人らにはいずれも次のような行為があり右は被申請会社の定める就業規則第三〇条に規定する懲戒事由に該当するので被申請会社は申請人らに対し前記の解雇をなしたもので右解雇は有効である。

一、申請人五十嵐に対する解雇事由

1  昭和三三年一二月一五日午前一〇時頃より小出谷鉄郎調木課長が調木係休憩室において、調木係従業員全員に対して当日以降の就労編成を発表せんとするや、申請人五十嵐は同係及び他係の従業員中の王子製紙労働組合苫小牧支部(以下王子労組)という)組合員並びに王子主婦連合会(以下主婦連という)所属の主婦ら合計約二三〇名の先頭に立つて、同課長をその場にあつた台の上に立たせ、同課長が再三に亘つて右従業員らに対し、速かに就労番割編成を聞いて就労すべき旨を命じたのにこれに応ぜず、自ら同課長に対し「脱落者は追放したものとして今後就労にあたる。」「チツプサイロ事件の責任追及」「課長、係員の直接指示をうけない。」等一二項目にわたる職場要求事項をつきつけてこれについての回答を強要し、同課長がやむなくこれについて回答しようとしてもこれに耳をかさず一々周囲の者を指揮煽動して、口々に罵詈雑言を浴びせさせ、更に右王子労組と被申請会社との後記争議期間中に生じたチツプサイロにおける従業員の死亡事故をとりあげて同課長を人殺し呼ばわりして、周囲にいた主婦連の者らに向つても「こんな具合で主人を働きに出せるか」などといつて煽動して同課長に対する吊し上げの気勢を煽つてその番割編成の発表を遮り、同課長がようやく就労番割編成を発表して就労を命じたところ、更に卒先してその編成の変更を強要して回答を求め就労を拒否し、同日午後四時一〇分頃にいたるまで前後約六時間に亘つて多数の威力をもつて同課長を吊し上げてその業務を妨害し、又故なく正当な業務上の就労指示を拒否して職場の秩序を著しく乱し業務の正常な運営に重大な支障を与えてもつて就業規則第三〇条(以下単に同条という)第二号第三号に該当する行為をした。

2  翌三四年一月七日から同月二一日迄の間申請人五十嵐は次のように単独又は調木係の他の王子労組組合員ら多数とともに再三に亘り同係の松浦憲保に対して暴行、脅迫、強要等を加えて、その間いずれも同人の業務を妨害し、もつてそれぞれ同条第二号に該当する行為をした。なお、左の(イ)乃至(ヘ)の各行為は全体としても同条第二号に該当する。

(イ) 一月七日午前三時半頃申請人五十嵐はおりから三番方勤務中の松浦に対して「話し合いに応じないと後から木ツ端がとんできたり鳶がとんできたりするぞ」と脅迫して話し合いを強要し、同日午前六時頃から話し合いと称して就業時間中の松浦をその意に反して調木係休憩室に呼び出し、同係の勤務中の他の王子労組組合員約五十数名とともに同休憩室内で同人を取囲み、申請人田村その他の者らが「坐つていては話ができないから立つて話せ」「青帽」「犬」「殺されても仕方がないぞ」「裏切者は殺人罪よりも重いぞ」などとあらゆる罵詈雑言と侮辱的脅迫的言辞を浴びせる中で自らも卒先して同人に対し「脱退時の心境をいえ」と執拗に迫り「新労(後記王子新労組)に入つた斉藤係長が会社を辞めたら自分も辞めるという念書を書け」「職場で木ツ端や鳶がとんできて怪我をしても文句をいわないという一札を書け。念書といつしよに今夜書いて持つて来い」などと恐ろしい剣幕で大声で右念書などを書くことを強要し、これに耐えかねて同人が室外に逃れようとするや後から同人の左腕を掴んで引つぱり同人がなおもこれを振切つて人垣を押わけて出口に近づこうとするや他の組合員らとともにその前に塞つて阻止し、更に同人を部屋の中央まで押返えし「今後も話し合いをする」「毎日このような話し合いをして本当に我々が勝つたということがわかるまでやるから覚悟しろ」というなど同人に対し暴行、脅迫を加え午前七時一五分頃にいたるまで同人の自由を拘束して強烈な吊し上げを行つてその業務を妨害した。

(ロ) 同月八日三番方の作業を終えた松浦が午前七時一五分頃、着替えのために休憩室に入つたところ、申請人五十嵐は両手で同人の両肩を掴えて同人を同室の入口とは反対の奥へ押しやり、同人が暴力をやめるように要求したがこれに耳をかさず、両肩を掴えたまゝで「昨日話し合いをするといつておいたのに今日は何処に行つていたのだ」といゝがかりをつけ、同室に居残つていた三番方勤務終了者及び一番方勤務者合計百十数名を集めて同人を取囲ませ、自らその先頭に立つて同人に対し「話し合いに応ずるといつたくせに何処に行つてやがつたのだ。とんでもない奴だ。典型的な裏切者だ」「お前は昨日のことを上司にあることないこと告げ口したのだろう。」などといゝ更に「吊し上げなんというものはこんなものではない。それこそ裸になつて猿又一つで外え立たされるのだ。『暁に祈る』のようなやり方をするんだ。今日は初歩だ」などの脅迫的言辞を弄し、これに煽られて周囲の者が「この野郎、池に叩き込んでやる。」「組織がなかつたらこんな奴やつけてしまうのは訳ない」「腰掛の上に立て」などと罵詈雑言を口々に浴びせる中で申請人田村茂と共に拒む松浦の両脇を抱えて無理矢理に、椅子の上に立たせたうえ、同人が前日の吊し上げを上司に報告したことにつき申請人らに謝罪せよと強要し、余りの烈しさに同人が黙つていると「何を黙つているんだ」「返事しないと本当に吊し上げをやつてやる」と詰めより、心身とも疲労困憊の極に達した同人がその意に反し、昨日の吊し上げの報告は誤りであつたと答えるや、更に「お前は二枚舌を使うから今のことを一札書け」「昨日の確約書といつしよに今夜書いて持つて来い。」「昨日のは吊し上げでなかつたといつて納得して貰つて来い。」「毎日これからも話し合いを持つことを約束しろ。」「風呂は今後我々が全部入つたあとから入れ」などと午前八時二〇分頃にいたるまで脅迫、強要して同人を吊し上げた。

(ハ) 同月一二日午後二時三〇分頃申請人五十嵐はスプリツターの処で二番方勤務に服していた松浦に対し「憲保、お前は念書を書いてきたか」と詰めより、同人が「書かない」と返事したところ「貴様のような奴は会社にいられなくしてやる」というや、いきなり同人の頭を掴んで運転中のコンベヤーに押えつけ、更に午後四時一五分頃、同人が階下の便所へ行こうとしたところ、その途中で同人に対し再び「何故貴様は書かないのだ」となおも詰問し「貴様のような奴はやつつけるのは訳ない」といゝながら左手で鳶を振り上げ右手で同人の胸倉を掴んで柱に押しつけ同人がこれを逃れようとして便所の角に達するや、再び胸倉を掴んでその隣り合わせの風呂場の方の壁に同人を押しつけ、ようやくのことでこれを逃れて便所に入るや、用便中の同人の背後から「何故書かなかつたのだ」「夕食の時にやつつけてやる」などと詰問し、同人の背中を小突いたり押したりして暴行、脅迫を加え同人の業務を妨害した。

(ニ) 同月一三日午後二時頃松浦が二番方勤務のため調木係休憩室よりスプリツター作業場へ行こうとしてコンベヤーの傍まで来たところ、申請人五十嵐は数名の王子労組組合員らとともに同人を取囲み「昨日お前が原質見張(原質部事務室のこと)に行つて職場放棄したのはどういう訳か」(前日吊し上げられたことについて松浦が上司に報告に行つたことを指している)といゝがかりをつけ「話し合いをしているのに吊し上げだと報告したのは何事だ。出鱈目いうな。」と凄い剣幕で詰めより約二〇分間に亘つて同人の自由を拘束し脅迫を加えて吊し上げ同人の業務を妨害した。

(ホ) 同月一四日午後二時過頃申請人五十嵐はスプリツター作業中の松浦に対し「お前は戸巻副部長に何をしやべつたのだ」と詰問し、同人が「やられたことを報告した」と答えるや、「もう一度いつて見ろ」と詰め寄り問答の末同人の胸倉を掴んでゆすぶり、同人がようやくにしてこれを振り切つて作業を続けようとしたところ、同人の作業していたスプリツターの電動スイツチを切つてこれを停止せしめて話し合いを強要し、同人がやむなく上司に報告のため見張へ行こうとするやその前面に立ち塞がつてこれを阻止するなどしてその業務を妨害した。

(ヘ) 以上の如き殆んど連日に亘る暴行、脅迫、強要を伴う吊し上げにたえかねて出勤に恐怖を覚えた松浦は一月一五日欠勤一六、一七、一九日は一旦出勤したが職場に出ることをためらつて斎藤係長に断つて休まざるを得なかつた。

しかして同月二一日松浦が一番方勤務に服していたところ、午後〇時一〇分頃、申請人五十嵐は申請人田村とともに「垣原職長が呼んでいるから」と称して同人を前記休憩室に連れ出し、垣原信和をはじめ約六〇名の王子労組組合員らとともに取囲み、右垣原らとともに卒先して松浦に対し、同人が同月一九日に欠勤したのにタイムカードに出退社の打刻があるとして難詰し、同人が説明しようとしても耳をかさず、周囲の者が口々に罵詈雑言を浴びせる中で申請人五十嵐は「斎藤係長とグルになつてやつたんだろう。重大問題だ。」と執拗に責め立て、かゝる情況では事情を説明しても到底聞いてくれそうにもないので松浦が休憩室から逃れようとするや、同申請人は申請人田村他数名の者とともに出口に立ち塞がつてこれを阻止し、更に同人の腕を掴んで逃がれようとするのを引きづり部屋の中央まで連れ戻し、同人が必死になつてようやく休憩室から脱出して見張の入口附近まで逃がれたところなおもこれを追つて見張の扉に足をかけて開けられないようにし、他の数名の者とともに同人の身体を取押え、同人がその場にしやがみ込んで連行を免れようとするや周囲から同人を足蹴りにして立たせた上再び同人を休憩室に連れ戻し、なおも多数の威力をもつて前同様の吊し上げを続け、斎藤係長がタイムカードを押したという趣旨の文書に執拗に署名を迫つて遂に同人をしてその意に反してこれに署名せざるを得ざらしめ、午後二時直前まで同人の業務を妨害した。

3  同月二三日、申請人五十嵐は一番方勤務として午前七時より就労すべきところ、他の一番方勤務者及び常日勤の勤務者その他合計約一二〇名の者(いずれも王子労組組合員)とともに調木係の休憩室にたむろし同月一九日に斎藤新一調木係長が松浦のタイムカードの退社時刻を同人に代つて打刻したのは就業規則違反であるからこの問題が解決しない限り就業しないと称してその業務を拒否し、斎藤係長、小出谷調木課長及び山谷幸之助原質部副部長らが再三に亘つて就業すべき旨を命じたが申請人五十嵐は更に他の従業員らの先頭に立つてこれを拒否し、よつて同日午前一〇時三〇分頃より翌二四日午前六時三〇分頃迄の間、工場の全操業を完全に停止せしむるに至り、職場の秩序を著しく乱し、会社の業務に重大な支障を与え、もつて同条第三号に該当する行為をした。

二、申請人田村に対する解雇事由

1  申請人田村は昭和三三年一二月一五日申請人五十嵐の前記解雇事由1記載の業務指示拒否職場秩序紊乱、並びに業務妨害行為に同申請人と共同して卒先して参加し、同条第二号第三号に該当する行為をした。

2  申請人田村は更に同三四年一月七日八日及び二一日における申請人五十嵐の前記解雇事由2の(イ)、(ロ)、(ヘ)各記載の各業務妨害行為に同申請人と共同して終始卒先して参加し、それぞれ同条第二号に該当する行為をした。なお以上各行為は全体としても同条第二号に該当する。

3  申請人田村は同年一月二三日一番方勤務者として午前七時より就労すべきところ申請人五十嵐の前記解雇事由3記載のとおり業務指示拒否職場秩序紊乱行為に同申請人その他の王子労組組合員とともに参加し、同条第三号に該当する行為をした。

三、申請人荒田に対する解雇事由

1  申請人荒田は昭和三三年一二月一五日午後四時頃より電気部長室において電気部所属の王子労組組合員約四十数名とともに塚田重電気部長を取囲み、同部長に対して話し合いせよと強要し、同部長がかゝる状態では話し合いに応ぜられないし、組合の要求であれば勤労部へ行つて貰いたいとのべて再三拒んだにかゝわらずなおも執拗に迫り、他の組合員らの先頭に立つて同部長に対し「今話をきいて貰えなければ明朝の出勤はしない。」と称して強要し、同部長が遂に耐えかねて部長室から退出しようとするや、まわりにいた組合員らが一斉に総立ちとなつて口々に「逃げるのか」「話がつくまでは外へ出さぬ」などと大声で叫ぶなかで、申請人荒田は自ら同部長の右腕を掴んで引つぱり、同部長がこれを振り切ろうとしたがなおも離さずに暴力を振い、同部長をして退出を断念せしめてもとの席に戻らしめ、続いて十数項目に亘る要求事項をつきつけてその回答を迫り更には議事確認書なる文書に捺印を迫り、同部長をしてその意に反してこれに署名することを約束せしむるにいたり、かくして午後八時頃まで同部長の自由を拘束して吊し上げその業務を妨害し同条第二号に該当する行為をした。

2  前同日午前八時三〇分頃より川村武夫汽力部長が第一汽罐係休憩室において第二汽罐係を除く汽力部従業員約八〇名に対して挨拶した際、右従業員の大部分を占める王子労組組合員らは終始罵声を浴びせてこれを妨害したため、混乱状態に陥つたので、同部長は浜谷文輔汽罐課長とともに一旦事務所に引き揚げ、その後その場に残つた仁和武汽機課長代理が就労の番割編成を発表しようとしたのであるが、その間申請人荒田は王子労組組合員の先頭に立つて、これらの者とともに同課長代理に対し「部長はどうした」「勤務割も部長から聞く」と称してその発言を遮り、同課長代理が番割編成を発表するや「この勤務割は従来通りでない。慣行に違反している。もと通りにせよ。」と騒ぎ立て他の組合員らを煽動し、同課長代理の説明に対して一々難癖をつけて妨害し、その後再び川村部長、浜谷課長らがその場に来て事情を説明した上で「この編成でやつてもらいたい」といつたところ、同申請人は同部長らの説明に耳をかさず「全然出鱈目だ。スト前の方法が一番よいんだ。やり直すべきだ」と叫んでその場の空気を煽り、ために他の組合員らもこれに同調して「従来通りやれ」「馬鹿野郎」などと大声で罵詈雑言を浴びせる中で同申請人は同部長らに対し番割編成の変更を強要し、同部長はやむなく役付の者だけを別室に集合させて編成を説明することゝし、その旨を全員に告げて浜谷課長、仁和課長代理らとともに同休憩室を出ようとしたところ、申請人荒田はやにわに「出すな」と大声で周囲の組合員らに指示して、組合員らをして先頭の川村部長の前に立ちはだかり、同部長の身体を押えてその退出を阻止させた上で、同部長に対し、「この場で発表しろ」と強要し、同部長らをもとの位置まで押返えし、午前一〇時頃にいたるまでその自由を不当に拘束して同部長らの業務を妨害し、且つ故なく就労命令を拒否して操業の開始を遅延せしめて職場の秩序を著しく乱すとともに会社の業務の正常な運営に重大な支障を与えてもつて同条第二号第三号に該当する行為をした。

3  同月一七日午後三時三〇分頃汽力部の佐々木太他二名の王子労組の職場委員長らが浜谷汽罐課長及び仁和汽機課長代理に対して川村汽力部長がいないのならばそれに代つて職場の明朗化について話を聞きたいと申し入れ同課長らがこれを拒否したところ「非番者が大勢待つているので自分達の口から部長の不在を伝えても承知してくれないので課長から部長が不在で出席できないということだけでも説明してくれ」と執拗に要求したので浜谷課長らはやむなくそのことだけの説明をするという確約のもとに汽力部第一汽罐係保全休憩室に行き、同部の王子労組組合員ら約七〇名に対して川村部長不在の理由を説明して帰ろうとしたところ、組合員らは口々に「課長の話を聞け」と叫び約二〇名の者が出口の扉の前に立ち塞がり、更に長椅子を横にして浜谷課長らの退出を完全に阻止する態勢をつくり、つづいて椅子を持出して同課長らを無理矢理にこれに腰掛けさせた上で我々の話を聞いて回答して貰いたいと強要し、浜谷課長に対し「西口に対して組合脱退を強要した」「青帽が出構の際窓から手を振つた」「東北門で組合員が警官と衝突しているときそれを見て笑つた」などのことがあるとしてこれらは凡て不当労働行為であると称し、次々と質問を浴びせ、浜谷課長がやむなくこれに答えようとするも耳をかさず、一方的に不当労働行為呼ばわりして罵詈雑言を浴びせて難詰したのであるが、その間申請人荒田は終始これらの者の先頭に立つてこれを指導し「みんなが課長に質問していることは全部不当労働行為である」と叫んでその場の気勢を煽り、ために他の組合員らもこれに同調して口々に「課長のやつたことはみんな不当労働行為だ」「そうだそうだ」「そんなことが不当労働行為であるということを知らんのか、課長のくせに能なしだ」などと大声でわめき立て罵詈雑言を浴びせるにいたり午後六時三〇分頃浜谷課長が急用のためその場を去るや、組合員らは引き続きその場に残つた仁和課長代理に対しても争議中に同課長代理が不当労働行為を行つたといゝがかりをつけて難詰し、申請人荒田は「そういうことはみんな不当労働行為だ」と称して組合員らを煽動し、他の組合員らも「そうだ、そうだ」と叫んで喧騒を極め、その場の空気は愈々険悪となり、申請人荒田は同課長代理に対して「不当労働行為を行つたと書け」と執拗に強要し、午後七時三〇分頃同課長がやむなくその意に反して「組合員に話したことに遺憾な点があつた。今後かようなことはしない」という文書を作成するにいたるまでそれぞれ浜谷課長、仁和課長代理の自由を拘束して吊し上げ、その間その業務を妨害してもつて同条第二号に該当する行為をした。

4  同月一六日汽力部汽罐課第一汽罐係の保全職場の王子労組組合員らが会社の業務を拒否して同職場において無届集会を行ない、斎藤政市第一汽罐係長に対して職場要求の回答を強要したがその際申請人荒田は午前一〇時頃より右集会に参加し、斎藤係長から「君は汽罐運転組長だから職場に帰つて仕事をするように」と命ぜられたにも拘わらず「俺は執行委員だ」と称してこれに応ぜず約二〇分間に亘り上司の指示に反抗して職場を放棄し、職場の秩序を著しく乱すとともに業務の正常な運営を阻害しもつて同条第三号に該当する行為をした。

5  昭和三四年一月一五日午前七時頃、申請人荒田は当日勤務の第一汽罐係の保全担当の王子労組組合員約一〇名及び同係の汽罐担当の非番の組合員六、七名を保全休憩室に集合せしめ、これを知つた斎藤第一汽罐係長がその組合員らに対し、勤務者は直ちに就労すべき旨の業務指示をなし非番者は即刻退社するように注意したにかゝわらず、これに従わず、同申請人は同係長に対し「丁度よい所に来た。坐つて話したらどうだ。」「沢山話すことがあるから坐つて話せ」といつて引き止めようとし、同係長がこれを拒否して就業を命ずると、なおも「係長が何だ」「係長だと思つてその横柄な態度は何だ」と喰つて掛り、他の組合員らを煽動し、まわりの者は口々に「話せ、話せ」と騒ぎ出したので、同係長が休憩室から出ようとするや、いきなり自ら数名の組合員らとともに同係長を取囲み、同人の両腕を掴んで強引に引き戻し、同係長がこれを振り切つてようやく休憩室の外へ逃れ出たところ、なおもこれを追つて同係長の左腕を押えて引き止め、右の情況を聞いてその場に来た仁和汽機課長代理が申請人荒田に注意を与えたところ、同申請人は多数の組合員らと共に同課長代理を取囲み、自ら同課長代理に飛びかゝつてその首に抱きつき、更に無理矢理に腕を引張つて休憩室へ引きずり込まんとするなど斎藤係長、仁和課長代理に対して暴力をふるつてそれぞれ同人らの業務を妨害し、その後午前八時二、三〇分頃に当日勤務の従業員らがようやく仕事についたところ、申請人荒田は勤務中の保全担当の水野義夫組長に対して同組長が斎藤係長に対する前記吊し上げを仁和課長代理に報告したことにつき「上司に報告したのはけしからん」といつて喰つてかゝつてその業務を著しく妨害し、午前九時四〇分過頃まで他の非番者とともに上司の注意をも無視して職場内に居残り、職場の秩序を著しく乱すとともに会社業務の正常な運営に重大な支障を与えもつて同条第二号第三号に該当する行為をした。

6  同月二七日申請人荒田は一番方として勤務すべきところ午前一〇時より午後〇時まで王子労組執行委員会に出席することになつていたので、かゝる場合には昭和三三年六月二〇日付の被申請会社の指示によつて就業時間中の組合活動として不就業届を提出すべきことになつており且つ又当日予め斎藤係長及び湯浅職長より不就業届を提出するように命ぜられ特に湯浅職長からはその際届出用紙まで渡されたにもかゝわらず飽くまでこれを拒否し、このため同人の不就業時間の賃金控除に関する会社の業務等に支障を与えたのみでなく更に他の組合員らにも悪影響を与えこれがため右同様に会社の業務に支障を与え、更に当日は右執行委員会に出席する以外の時間は就業すべき旨を斎藤係長より指示をうけていたにもかゝわらず同日午前九時頃より同一〇時頃まで及び午後〇時頃より同一時三五分に至る間無断でその職場を放棄し、職場の秩序を著しく乱し、会社業務の運営を阻害し、もつて同条第三号に該当する行為をした。

四、申請人荒に対する解雇事由

1  昭和三三年一二月一五日午前一一時頃山谷幸之助原質副部長、戸巻運吉原質副部長兼抄取調成課長らが調成係オリバーの前において抄取調成課の従業員ら約一八〇名に対して就労方法の説明をなし、これに続いて就労の番割編成を発表し説明するや、申請人荒は王子労組組合員らの先頭に立つて「スト前の番割編成と違う」「中山あつせんの趣旨に反する」「何故変更したか」「青帽の係長がやつたのだろう」などといゝがかりをつけて他の組合員らを煽動し、戸巻副部長らが説明を加えて再三にわたつて直ちに就労するように命じたがこれに応ぜず、煽動に乗つた組合員らは口々に「編成をスト前のものに変更しない限りは此処を立たない」「仕事なんかできるものか」と叫び罵詈雑言を浴びせ、益々喧騒を極めるに至つた。そのうち青年行動隊が正面に躍り出てスクラムを組み労働歌を高唱し、全員がこれに和して収拾のつかない状態となり、戸巻副部長らはやむなくその意に反して午後一時三〇分頃その番割編成を撤回せざるを得なくなり、争議前の編成で即時作業に就くように命ずるや、すかさず申請人荒は「休憩所を拡張して貰いたい」と要求し、その他にも要求が沢山あると称し、同副部長が「そのような要求は職制を通じて提出されたい。今日は操業が遅れており直ちに就業するように」と命じたが「我々の要求を聞いてくれ。これが全部決らなければ駄目だ。仕事しない。」「晩飯を準備して徹夜でもやる」と称してこれに応じようとせず、かくして午後二時四〇分に至るまで業務指示に反抗して職場の秩序を著しく乱し会社の業務の正常な運営に重大な支障を与えもつて同条第二号第三号に該当する行為をした。

2  同日午前一〇時三〇分頃、申請人荒は中野匡雄抄取係長に対し再三にわたり第一三号マガジン室に来て挨拶することを執拗に強要し、遂に同係長を同人の意に反して第一三号マガジン室の原質部従業員及び主婦連の者ら約一、〇〇〇名が坐り込んでいる前に連れ出しまわりから王子労組組合員らが「裏切者」「馬鹿野郎」「犬」「此の野郎」などと罵詈雑言を浴びせかける中で挨拶を強要し、これに続いて戸巻副部長らに対する前項の吊し上げがなされた後、午後二時頃再び中野係長に対し、話し合いをしたいと再三にわたつて要求したがこれを拒否せられるや、午後二時四〇分頃「操業上の指示をしてほしい」と偽つて同係長及び同係の戸巻仁三郎、新田勝雄、小野田辰雄、工藤宗雄各職長を抄取係休憩室へ呼び出した上、同室に待機していた抄取係の王子労組組合員、主婦連の者並びに他係の者まで交えて約一〇〇名の者らをもつて中野係長及右職長らを取囲み、申請人荒はその先頭に立つて中野係長に対し就労の指示並びに挨拶を求め、同係長がこれを終つて帰ろうとしたところ取囲んだまゝの態勢でこれを阻止し、同申請人は質問者を指名して次々と同係長に対して質問させ、まわりの組合員らは口々に「裏切者」「そんなことでは我々は協力出来ない」「組合に帰らない限りは駄目だ」「辞めてしまえ」などと大声で罵詈雑言を浴びせ、王子労組への復帰を強要する中で、申請人荒は「部長が第一組合(王子労組)一本になるように努力すると約束した」と称して他を煽動し、更に「部下がみんな協力しないということであれば係長はそれで仕事が出来るのか」といつて同係長に詰め寄り、これがため周囲の者は「辞めてしまえ」「馬鹿野郎」などと大声で叫び「洗濯かけろ」といつて脅迫し、同係長が黙つていると申請人荒は「みんなこれでいゝですか」といつて吊し上げの気勢を煽り、これがためその場の空気は益々険悪となり、次々と同様の方法をもつて各職長らを吊し上げ午後五時二〇分頃にいたるまで中野係長以下五名の自由を拘束して吊し上げてそれぞれの業務を妨害し、且つ自己の業務を放棄して職場の秩序を著しく乱し、会社の業務の正常な運営に重大な支障を与えもつて同条第二号第三号に該当する行為をした。

尚同日午後六時頃申請人荒は多数の王子労組組合員らを指揮して抄取係事務室内の更衣箱四個を中野係長の制止命令を無視し、職場大会の決議だと称してこれを同係の試験室内に運び込み職場の秩序を著しく乱して業務に支障を与えもつて同条第三号に該当する行為をした。

3  同月一七日午後二時頃より申請人荒は会社に無断で抄取係休憩室において職場大会を開催し、同二時五分頃中野係長に対し「課長が職場の要求は係長を経て来いといわれた」と称し同係長に抄取係休憩室に来て貰いたいと要求して同係長を右休憩室に連れ出し、同所で抄取係の王子労組組合員の外他係の者及び主婦連の者をも交え約八〇名の多数をもつて同係長を包囲し、同申請人は多数の職場要求なるものを突きつけてその回答を強要し、同係長がやむなくこれに応答したところ周囲の者らは「係長は権限がないといつて逃げるが権限がなかつたら係長を辞めたらどうだ」「辞めろ」「我々はかゝる係長には協力出来ない」「そうだ、そうだ」などと大声で叫んで罵詈雑言を浴びせ喧騒を極めて吊し上げ、同係長がこれにたえかねて室外に逃がれようとして出口の方え行こうとするや申請人荒はその前に立塞つて阻止しながら「みんなの意向はどうか」といつて他の者を煽動し、なおも同係長を押しとゞめ、囲りの者は更に「何故部下を棄てゝ脱退(王子労組を)したのか」「脱退(王子新労組)をしない限り協力出来ない」「第一組合(王子労組)の者と絶対話をしないことを誓約しろ」などと詰め寄り午後三時三〇分頃に至るまで中野係長の自由を拘束して吊し上げを行つてその業務を妨害しもつて同条第二号に該当する行為をした。

4  同三四年一月二六日一番方勤務として出勤した抄取係の従業員二一名中王子労組組合員一八名が抄取係休憩室に屯ろし、「前日の二四日三直の抄終いに新田、小野田両職長を午前三時より同七時までの間勤務させたがその作業内容は当直作業でありその点について説明し納得出来なければ仕事をしない」と称して中野係長及び工藤、戸巻仁三郎両職長らの再三にわたる就業命令を拒否し続けたが、申請人荒は同係の一番方組長の地位にあり、これらの従業員らに対して直ちに就業すべき旨を命じ且つ自からも就労するべきであるにかゝわらず、何らかゝる措置をとらなかつたばかりか、自らもむしろかゝる組合員らの業務拒否を支持し、これらのものとともに勤務終了時に至るまで就労しなかつたのみならず引き続き二番方勤務の組合員らに対しても就労を拒否せしめ、遂に同日午後八時一〇分頃に至るまでの間同職場の王子労組組合員をして業務を拒否せしめ、職場の秩序を著しく乱し、会社の業務の正常な運営に重大な支障を与えもつて同条第三号に該当する行為をした。

第五、申請人らの右主張に対する認否

一、申請人五十嵐の認否

1  〔同人に対する解雇事由1について〕被申請会社主張の日時(但し午前一〇時半頃から)場所において小出谷課長が番割編成を発表しようとしたこと、その場所に申請人五十嵐及び従業員がいたこと、そこで右課長と従業員との間で一二項目の要求事項などについて交渉がなされたこと、同課長が番割編成を発表したこと、これに従業員が異議を述べたこと、及び午後四時頃までその交渉が続いたことは認めるがその余の事実は否認する。尚交渉が長びいたのは同課長が従業員らの職場要求、不当な就労編成の変更要求に対して誠意ある態度をとらなかつたからである。

尚同申請人は当日は非番であるので自らの業務を拒否したことはない、又、他の従業員の先頭に立つて就労の拒否を指揮煽動したこともない。従業員らは右のような事情から自然仕事につかないようになつたものである。

2(イ)  〔同2(イ)について〕一月七日午前六時過から同七時頃までの間被申請会社主張の場所で申請人五十嵐が他の従業員らと共に松浦憲保と話し合つたことは認めるがその余の事実は否認する。尚右話し合いは松浦の業務終了後である。

(ロ)  〔同2(ロ)について〕同月八日午前七時二〇分から同八時頃までの間被申請会社主張の場所で申請人五十嵐が三番方勤務終了者とともに松浦と話し合つたことは認めるがその余の事実は否認。尚話し合いは松浦の業務終了後である。

(ハ)  〔同2(ハ)について〕被申請会社主張の日階下便所で申請人五十嵐が松浦と一つしよになつたこと及び便所で軽く小突いたことは認めるがその余は否認、尚右松浦が業務に就いていたときではない。

(ニ)  〔同2(ニ)について〕被申請会社主張の日時、場所で申請人五十嵐が松浦に出合つたことは認めるがその余の事実は否認。

(ホ)  〔同2(ホ)について〕被申請会社主張の日時、場所で申請人五十嵐が五分位松浦と話し合つたこと、スプリツターの電動スイツチを切つたことは認めるもその余の事実は否認。

(ヘ)  〔同2(ヘ)について〕同月二一日午後〇時一〇分から二五分頃までの間休憩室で申請人五十嵐が垣原職長はじめ五〇名位の従業員とともに松浦に対しタイムカードの打刻につき説明を求めたことは認めるがその余の事実は否認。尚右は昼休み中であつて就業時間中ではなく又松浦が文書に署名したのは業務終了後である。

3  〔同3について〕申請人五十嵐が他の従業員と共に被申請会社主張の日時にその主張の用件で斎藤係長と話し合い、その結果従業員が業務につかず工場の操業が停止したことは認めるがその余の事実は否認。右は斎藤係長が就業規則に違反して松浦に差別扱いしたことにつき誠意ある態度をとらなかつたため同申請人を含む従業員が自然仕事につかないようになつたもので同申請人が先頭に立つて業務を拒否したことはない。従つて故なく指示に従わなかつたものではない。

二、申請人田村の認否

1  〔同人に対する解雇事由1について〕申請人五十嵐の認否1と同じ(但し「申請人五十嵐」の代りに「申請人田村」と入れる。以下同じ。)。但し申請人田村は当日三番方で就労しているので自らの業務を拒否したことはない。

2  〔同2について〕申請人五十嵐の認否2の(イ)(ロ)(ヘ)と同じ。

3  〔同3について〕申請人五十嵐の認否3と同じ。

三、申請人荒田の認否

1  〔同人に対する解雇事由1について〕被申請会社主張の日に申請人荒田が電気部所属の従業員とともに同部門の職場要求について塚田部長と話し合いをしたことは認めるがその余の事実は否認。右話し合いが長くなつたのは同部長が誠意ある態度をとらなかつたからである。

2  〔同2について〕被申請会社主張の日時場所で川村部長が被申請会社主張の者に対し挨拶をし、仁和課長代理が就労の編成を発表したこと、従業員がその発表に対し被申請会社主張の旨の異議を述べたこと、川村部長らが再びその場へ来たこと、及び同部長が役付の者だけを別室に集合させようとしたことは認めるがその余の事実は否認。川村部長らとの交渉が長くなつたのは同部長らが職場要求、不当な就労編成の変更の要求に対し誠意ある態度をとらなかつたからである。

尚申請人荒田や他の従業員らは右のような事情から自然仕事につかないようになつたものである。

3  〔同3について〕被申請会社主張の日時に浜谷課長らが川村部長不在の理由を説明したこと、従業員が争議中の浜谷課長らの不当労働行為について話をしたこと、午後五時少し前同課長がその場を去つたこと、午後六時半頃仁和課長代理が被申請会社主張の文書を作成したことはいずれも認める。同日浜谷課長らが被申請会社主張の場所に来るに至つた事情は不知。その余の事実は否認。右は汽力部組合員の職場集会で浜谷課長らとの話し合いがもたれたのでそれが長くなつたのは同課長らが誠意ある態度をとらなかつたからである。

4  〔同4について〕一二月一七日(一六日ではない)申請人荒田が午前一〇時頃被申請会社主張の場所に通りがかりに立ち寄つたことは認めるも集会がなされた事情は不知、その余の事実は否認。

5  〔同5について〕被申請会社主張の日時、場所にその主張の者が集合したこと、斎藤係長が就労及び退社を命じたがこれに従わなかつたこと、同係長が休憩室を出ようとしたこと、仁和課長代理がその場に来たこと、申請人荒田が水野組長に会つたこと、午前九時四〇分頃まで職場内に留つたことはいずれも認めるがその余の事実は否認。

右斎藤係長との交渉が長くなつたのは同人が職場要求に対し誠意ある態度をとらなかつたからである。又申請人荒田は当日は非番であるので自らの業務を拒否したことはない。又、他の従業員にも就労の拒否を指揮煽動したこともない。従業員は右のような事情から自然就労が若干遅れるようになつたのである。

6  〔同6について〕申請人荒田は当日被申請会社主張のような勤務番であつたこと、その主張の時間に組合の執行委員会に出席することゝなつたこと、湯浅職長から不就業届を出すようにいわれたが届出をしなかつたこと、及び同日午前一〇時から午後〇時まで職場にいなかつたことは認めるがその余の事実は否認。

四、申請人荒の認否

1  〔同人に対する解雇事由1について〕被申請会社主張の日時、場所で戸巻副部長が番割編成を発表したこと、従業員がこれに異議を述べたこと、午後一時半頃右番割編成を撤回したこと、申請人荒が休憩所の拡張等につき戸巻副部長に要求したこと、及び午後二時四〇分頃まで就労しなかつたことは認めるが、その余の事実は否認。

戸巻副部長らとの交渉が長びいたのは同副部長らが不当な就労編成の変更の要求に対して誠意ある態度をとらなかつたからである。申請人荒は他の従業員の先頭に立つて煽動したことはない。従業員らは右のような副部長らの態度から自然仕事に就かないようになつたものである。

2  〔同2について〕被申請会社主張の日時場所で、その主張の従業員らのいるところで中野係長が挨拶したこと、午後三時と同三時三〇分頃操業上の指示を中野係長に求めたこと、中野係長及び四職長が休憩室に来て従業員らのいるところで就労の指示をしたこと、同日午後四時頃更衣箱四個を被申請会社主張の場所に移動させたことは認めるが、その余の事実は否認。

3  〔同3について〕被申請会社主張の日午後二時頃から同三時三〇分頃までの間非番者のみで職場集会を開きその集会で中野係長が来て話し合つたことは認めるが、その余の事実は否認。同係長との話し合いが長びいたのは同係長が職場要求に対し誠意ある態度をとらなかつたからで自然そうなつたのである。

4  〔同4について〕被申請会社主張の日時場所で従業員らがその主張する理由で中野係長らに説明を求めたこと、申請人荒が勤務終了時(午後二時)まで就労しなかつたことは認めるが、その余の事実は否認。同申請人が他の従業員の先頭に立つて就業命令を拒否させたことはない。従業員らが仕事に就かなかつたのは二四日三直の抄終いの異例不当な処置について中野係長らに対し説明を求めたのに同係長らが誠意ある態度をとらなかつたからである。

第六、申請人らの解雇処分の無効原因に関する主張

一、懲戒処分手続の瑕疵

申請人らに対する解雇事由の有無に拘らず本件懲戒処分はその手続に瑕疵があつて無効である。即ち

(1)  被申請会社が王子労組員を懲戒処分にするには被申請会社と王子労組との間に締結された労働協約第五〇条により苫小牧工場懲戒委員会規則による懲戒委員会の答申に基いてこれをなすべきことになつている。右協約は現在失効中ではあるが、昭和三三年七月一八日から開始された無期限ストライキの解決のため同年一一月二一日提示され且つ被申請会社及び王子労組が受諾した所謂中山あつせん案第四項には従来労使間での争のない協約条項は従来の慣行によることとすると提示してあり、右懲戒処分手続については現在迄何らの紛議もなかつたのであるから被申請会社は懲戒手続については信義則上右手続によらなければならない義務がある。ところで右の規則によれば懲戒委員会は会社側、組合側双方同数(六名づつ)の委員をもつて構成され、その構成員をもつて審議を尽させ答申させるものであるが、その所以はこと懲戒処分の問題はその性質上慎重を要するものであり、いやしくも被処分者の人権を侵害することのないようにとの配慮に出ずるものである。従つてその審議は会社、組合双方とも誠意をもつて討議し、被処分者本人の陳述を聴取し又は関係者を招き証言及び意見を徴するなどあらゆる角度から事案の真相を究明する方法を講じなければならぬところである。

(2)  然るに本件懲戒処分は申請人ら四名を含む三五名の従業員の懲戒処分であり、事案も復雑なものであるのに、被申請会社は昭和三四年二月一三日を第一回として懲戒委員会を開いたものの会社側委員は初めから事実の真相を解明し、審議に慎重を期することなくいたづらにその終結のみを図り組合側委員の意見に全く耳をかすこともなく遂に同年三月一四日会社側委員である右懲戒委員会委員長は実質的な審議を経ることもなく一方的にこれを打切つて終結し、会社側委員及び組合側委員の意見は不一致としてその旨被申請会社に答申した。

(3)  従つて右懲戒委員会の答申なるものは委員会の充分な審議なくしてなされたものであり、かゝる答申に基いてなされた申請人らに対する懲戒処分は信義則に反するもので権利の濫用である。故に本件解雇処分は無効である。

二、懲戒権適用除外

仮に右主張が認められないとするも申請人らの解雇事由とされた行為はいずれも懲戒権の対象とはならないものである。従つてそれを対象としてなされた本件懲戒処分は無効のものといわなければならない。

(1)  即ち申請人五十嵐は王子労組の組合員であつて中部地区委員長である。

申請人田村も同組合の組合員であつて支部委員である。

申請人荒田も同組合の組合員であつて支部執行委員兼原動部門委員長である。

申請人荒も同組合の組合員であつて原質部抄取班職場委員長である。

(2)  申請人らの解雇事由とされた行為は右王子労組の一般的方針乃至具体的指揮に基いてなされた組合活動であり且つ職場闘争という労使の対立間に生じた所謂集団的労働関係の一環としての行為である。ところで就業規則による懲戒処分は会社、従業員の個別的労働関係を前提とする企業秩序についてその違反に対する制裁としてなされるものである。従つてもともと集団的労働関係にはこの個別的労働関係の規範たる就業規則の適用はない。そうすると仮に集団的労働関係における行為にたまたま行き過ぎがあつて正当なものでない場合においてもその本質には変りがないのであるから、就業規則の適用がないという原理には変りはない。従つて本件においても解雇事由とされた行為は事実の有無を問うまでもなくもともと就業規則による懲戒の対象とすることができない性質のものであり、同規則の懲戒権の適用のないものである。

三、懲戒権の濫用

仮に右主張が認められないとするも申請人らに対する本件懲戒処分は懲戒権の濫用であつて無効である。即ち

(1)  申請人らの所属する王子労組は昭和三三年二月以降一四五日間のストライキを含む長期且つ大規模の争議に入り、被申請会社の主張する申請人らの行為はいずれも争議終了期の従業員の就労に関連して起つたものであるが、殊に右争議中に第二組合である王子製紙新労働組合(以下王子新労組と略称する)ができ、これに被申請会社が支持、介入し更に一層争議の情勢を複雑深刻ならしめた。従つて右従業員の就労再開にあたつても王子労組、王子新労組両組合の対立は勿論のこと労使である被申請会社と王子労組との間においても相互の信頼関係も回復することなく異常な対立のまゝ就労しなければならなかつた。このような情況のもとにおいて、被申請会社の王子労組に対する態度にも幾多の行過ぎ、無理、不誠実な点があつた。例えば被申請会社は(イ)中山あつせん案の条項、仲裁々定、それに基づく王子労組との間の協定等に違反する行為をなし(ロ)王子労組と王子新労組とを差別扱いし(ハ)右のような紛争その他職場要求解決のための職場交渉を故なく拒否したり又誠意をもつてこれに当らなかつた。

(2)  申請人らの行為はいずれも右のような異常な情況とその間における被申請会社側の態度を直接間接の原因として生じたものである。従つてその責任はむしろ被申請会社側にあるといわなければならない。然るに被申請会社は申請人らの行為のみをとらえて一方的に申請人らのみに責任を帰せしめて懲戒処分に付したということは懲戒権の濫用といわなければならない。

四、不当労働行為

仮に右主張が認められないとするも、本件解雇事由とされている各行為はいずれも申請人らがその属する王子労組のためになした正当な組合活動即ち組合の正当な行為であるにかゝわらず被申請会社は組合の弱体化を計るという反組合的目的のために右行為をとらえて申請人らを懲戒処分に付したものであつて、労働組合法第七条第一号に違反する不当労働行為として無効なものといわなければならない。

即ち、被申請会社は前項で述べたように争議終結後の異常な情勢の下でもつぱら第二組合である王子新労組を育成し、第一組合である王子労組を切り崩し弱体化せんと策動したのである。それ故右王子労組はその組合員の団結を守りその組織を強化せんがために種々職場闘争に入らざるを得なかつたのである。従つて右職場闘争は王子労組の組合員としての申請人らにとつては正当な組合活動であり組合の正当な行為といわなければならない。然るに被申請会社は専ら右の如き王子労組弱体化の意図から申請人らの職場闘争行為をとらえて本件懲戒処分をなしたものである。

第七、申請会社の右主張に対する認否

一、〔懲戒処分手続の瑕疵の主張について〕

(1)  申請人ら主張の(1)の事実中中山あつせん案の趣旨の点を除いてこれを認める。右あつせん案第四項の趣旨は従来労使間で争のない条項は「なるべく」従来の慣行によるとあるに過ぎず従つて申請人らの主張するが如く懲戒委員会の審議・答申手続は必らず経なければならないというものではない。

(2)  同(2)の事実について、申請人らの主張の日時に懲戒委員会が開かれ且つ後日同委員会委員長が右委員会の審議を終結して会社側委員、組合側委員の意見不一致として被申請会社に答申したことは認める。但し右委員会の審議が終結せられたのは三月一七日である。その余の事実は否認する。

(3)  同(3)の事実は否認する。被申請会社は昭和三四年一月三一日申請人ら四名を含む三五名の従業員に対する懲戒処分について懲戒委員会に諮問したので同委員会が前記日時に開催されたものであるが王子労組は当初から右懲戒委員会開催自体についても激しく反対の態度をとり言を左右にしてその開催を阻止せんとしたのである。而してその後中央労働委員会中山会長の勧告もあつて組合側は開催に応ずる態度に転じ漸く開催される運びとなつた。ところが右開催後も終結せられるに至つた三月一七日迄前後一六回の委員会期日が持たれたのであるが組合側委員は依然として真剣に事案を審議するという態度がなく事々に審議の遷延乃至は阻止、妨害を図るのみであつた。従つて仮に右委員会の審議に不充分な点があつたとするならばその責任はむしろ組合側にあつて被申請会社にはないから右の審議手続が仮に必要であるとしても現に審議手続を行い、且つその内容は適法であるといわなければならない。

二、〔懲戒権適用除外の主張について〕

申請人らが本件解雇処分をうける迄はいずれも申請人らの主張する王子労組の組合員であつて且つその役職についていたことは認める。その余の主張はいずれも否認する。

三、〔懲戒権の濫用の主張について〕

本件解雇事由はいずれも申請人らの主張する争議終結の後に発生したものであること、及び右争議中に王子新労組が結成されたことは認めるもその余の事実はいずれも否認する。

四、〔不当労働行為の主張について〕

申請人らの右主張はいずれも否認する。

第八、当事者双方の提出した証拠及び書証に対する認否〈省略〉

理由

先ず被保全権利の点について判断する。

第一、申請の理由一ないし三のうち当事者双方に争のない事実は次のとおりである。

1、被申請会社王子製紙株式会社は当事者表示の肩書地に本社をおき、北海道苫小牧市及び愛知県春日井市に各工場を設け従業員約四、七六〇名(内苫小牧工場は約三、二九〇名)を雇用する紙類、パルプ類及びその副産物の製造加工販売等を営む会社であること。

2、申請人五十嵐は昭和一四年九月被申請会社に入社し、右苫小牧工場原質部調木課調木係従業員として勤務していたこと、申請人田村は同二七年八月二一日被申請会社に入社し同工場の原質部調木課調木係従業員として勤務していたこと、申請人荒田は同一一年一二月二一日被申請会社に入社し、同工場汽力部汽罐課第一汽罐係の従業員として勤務していたこと、申請人荒は同一四年三月一日被申請会社に入社し、同工場原質部抄取調成課抄取係従業員として勤務していたこと。

3、被申請会社は同三四年三月二四日申請人らに同会社の就業規則に定める懲戒事由があるとして申請人五十嵐、同田村、同荒田に対しては懲戒解雇を、同荒に対しては諭旨解雇をする旨通知したこと、

4、而して右通知以後被申請会社は申請人らを同会社の従業員と認めないこと。

第二、よつて解雇事由の存否について判断する。

被申請会社は申請人らにはいずれも同会社の就業規則第三〇条第二号、第三号に規定する懲戒事由に該当する行為があつたので申請人らに対し前記解雇通知をなしたものであるから右の解雇はいずれも有効であると主張するので以下その主張する申請人らに対する解雇事由の存否について判断する。

先ずその成立に争のない疏乙第一号証によれば被申請会社の就業規則第三〇条は懲戒解雇をなす場合の基準を定めており、その第二号には「工場事業場において他人に暴行脅迫を加え、業務に妨害を与えたとき。」同第三号には「業務上の正当な指示に故なく従わず職場秩序を著しく紊し、業務に支障を与えたとき。」と規定されてあることを認めることができる。よつて各申請人について順次右懲戒解雇基準に該当する事由の存否の点を判断する。

一、申請人五十嵐、同田村に対する解雇基準該当事由の存否。

1、〔同申請人らに対する解雇事由1(小出谷課長の業務指示違反等)について〕

(1) 被申請会社主張のように当日午前小出谷課長が調木係休憩室において個々の従業員の同日並びに翌日以降の就労すべき担当業務の番割編成を発表しようとしたこと、その場所に申請人五十嵐、同田村がいたこと、従業員の中から一二項目の要求事項が同課長に対して提出されたこと、同課長が同休憩室で番割編成を発表したこと及びこれについて従業員中より異論が出たことについては当事者間に争のないところである。そして証人宮崎府央の証言により真正に成立したものと認められる乙第一六号証、証人小出谷鉄郎の証言により真正に成立したものと認められる同第二〇号証、成立に争のない同第二二号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる同第一九号証、第四九号証、第五〇号証、及び右証人小出谷、並びに同斎藤新一の各証言を綜合すると、小出谷課長が右就労編成を発表せんとしたのは同日午前一〇時頃であり且つその際同課長は予め右休憩室に集つていた調木係従業員全員に対して当日以降の就労の番割編成の発表を受けたうえ、就労すべき番のものは直ちに就労に入られたい旨の指示を与えた上で右編成を発表せんとしたところ、申請人五十嵐、同田村は同休憩室の従業員中の王子労組組合員並びに主婦連の者ら約二二〇名の先頭に立つて同課長に対し、「王子労組組合員は脱落者を追放したものとして今後就労に当るがこれに対する部課長の見解。」「チツプサイロ事件の責任追及並びにその安全対策。」「命令系統の厳守、課長係長の直接指示をうけない」など一二項目にわたる要求事項を提出して同課長の回答又は見解の発表を迫り右の回答があるまでは同課長の就労編成の発表は聞かないといつて故なく先ず回答を強要して、就労を肯ぜず同課長が先ず就労編成の発表をしようとするや室内はこれを非難して喧々ごうごうとなつたが申請人等はこれを制止せず、同課長をしてこのまゝ編成発表をすれば如何なる事態になるかも解らないと惧れさせ、よつて右一二項目の要求事項につき逐次回答をさせたが同申請人らは更に他の組合員らとともに一々その答弁に不満を表明して更に答弁を求めて応答に窮せしめ又は同課長を無責任者呼ばわりをし、他の従業員の罵詈雑言に相槌をうち、或は主婦連の者らを煽動してその発言を煽るなどして結局同日午後一時二〇分頃同課長が右休憩室を退出する迄の間同課長に番割編成発表をさせなかつたとの事実を認めることができ右認定に反する疏甲第一九号証の一、二、第二〇号証の一、二、第三四号証の各記載部分並びに証人垣原信和の証言部分、申請人五十嵐、同田村の各本人尋問の結果部分はいずれも措信することができず他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(2) 右の認定各事実からすると右申請人等は同日午前一〇時頃から午後一時二〇分頃までの間課長を脅迫してその業務を妨害したものであつてその行為は懲戒解雇基準の第二号に該当する。

(3) しかし被申請会社主張の番割編成の変更要求の点については、なるほど同日午後一時二〇分以降更に同二時頃より右小出谷課長が再び右調木係休憩室で同課の就労編成の具体的発表を行つた際、並びにその後調木課見張室(事務室のこと、以下同様)において同課の王子労組組合員から就労の番割編成の変更要求についての交渉を受けたことは前示認定資料となした各証拠に徴してこれを認め得るけれども右申請人らがこれに参加していたものと認むべき証拠がないのでその余の点につき判断するまでもなく右主張部分は失当である。

(4) 尚被申請会社は申請人らの右(1)で認定した所為について懲戒解雇基準第三号にも該当するものと主張するが前判示のとおり当時は未だ当日の番割発表はなされておらず従つて申請人らに対し、就業すべき旨の具体的業務上の指示がなされたと認めることはできず、他にこれを認め得る資料もないので結局被申請会社主張の業務上の指示が認め難いことに帰し、右解雇基準に該当するとの被申請会社の右主張は失当である。

2、〔同2(松浦憲保に対する業務妨害)について〕

(一) 主張事実2の(イ)について

(1) 被申請会社は申請人五十嵐が昭和三四年一月七日午前三時半頃、おりから三番方勤務中の松浦憲保に対し、脅迫的言辞を弄して話し合いを強要しその業務を妨害したと主張するが、業務妨害の点については証人松浦憲保の証言により真正に成立したものと認められる疏乙第二三号証の一、弁論の全趣旨から同様に成立したものと認められる同第五一号証、及び右証人松浦の証言を綜合すると、なるほど、松浦が当日は三番方勤務であつたこと、及び申請人五十嵐は同日午前三時半頃調木課スプリツター作業場において就業中の右松浦に対し、同申請人ら王子労組組合員との話し合いを求め「話し合いに応じなければ後から木ツ端や鳶がとんできても責任を持たんぞ」といつて脅迫したことはこれを認めうるけれどもしかし、就労時間中の者に対して前示のような脅迫行為がなされたとしてもそれのみで直ちにその者の業務が妨害されたものと推認することはできないから、松浦が申請人五十嵐の右行為によつてその業務を妨害されたと認めることはできず他にこれを認めるに足る証拠はない。

更に被申請会社は申請人五十嵐、同田村が他の王子労組組合員とともに同日午前六時頃から調木係休憩室において松浦に対し暴行、脅迫を加えて同人の業務を妨害したと主張するが、先ず松浦の当時の就労状態について判断するに証人松浦憲保の証言により真正に成立したものと認められる疏乙第二三号証の一、弁論の全趣旨から同様に成立したものと認められる同第五一号証、申請人五十嵐の本人尋問の結果真正に成立したものと認められる疏甲第一九号証の二、弁論の全趣旨から同様に成立したものと認められる同第二〇号証の二、同第三五号証、証人薄井忠勝、同松浦憲保の各証言、申請人五十嵐、同田村の各本人尋問結果を綜合すると、松浦は三番方勤務として前日の午後九時から当日の午前七時迄がその作業時間ではあるが、右調木課職場では通常三番方勤務の作業時間中午前六時より同七時迄の間は手持ち時間と称し、残材が多くある場合のみ継続して作業をするが残材のない場合は同六時を過ぎると適宜作業を終了していること、当日も別に残材がなく同六時をもつて松浦をはじめ他の調木課従業員も既に作業を終えていたことを認めることができるので申請人五十嵐、同田村が仮に被申請会社主張の如き行為をその主張の時間になしたとしても松浦の当日の業務を妨害したものとはならず、他に右認定を動かして被申請会社のこの点についての主張を認めるに足る資料はない。

(2) そうすればその余の点についての判断をまつまでもなく被申請会社の右主張はこの点において失当である。

(二) 主張事実2の(ロ)について

次に被申請会社は同月八日申請人五十嵐、同田村が他の王子労組組合員らと午前七時五分頃から調木係休憩室において松浦に対して脅迫、強要をなしてその業務を妨害したと主張するが右松浦が右時刻において既に当日三番方勤務としての作業を終了した後であることについては当事者間に争がないのであるから仮に申請人五十嵐、同田村らがかゝる行為をその主張の時になしたとしてもその行為が松浦の業務を妨害したものとはいうを得ないからその余の点についての判断をまつまでもなく被申請会社の右主張もまたこの点において失当である。

(三) 主張事実2の(ハ)について

(1) 成立に争のない疏乙第一三号証の三七、証人松浦の証言により真正に成立したものと認められる同第二三号証、及び右証人松浦の証言によると申請人五十嵐は一月一二日午後二時三〇分頃、調木課職場のスプリツターの所で二番方として勤務していた右松浦に対し「憲保、お前は念書を書いて来たか」と詰めより同人が書かないと答えると「貴様のような奴は会社にいられなくしてやる」というや同人頭に右手をかけて運転中のコンベヤーの方に押えつける暴行を加えたとの事実を認めることができ右認定に反する前掲疏甲第一九号証の一、二の記載部分及び申請人五十嵐の本人尋問の結果部分は措信しえず他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(2) 次に同日申請人五十嵐が階下の便所で右松浦と会つたこと、及び同所で松浦に対し軽く小突いたことはいずれも当事者間に争いがないが、右疏乙第一三号証の三七、同二三号証の三、証人松浦の証言を綜合すると同日申請人五十嵐が階下の便所で松浦に出会つたのは同人の勤務中である午後四時一五分頃であり且つその頃右松浦が便所え行こうとした途中で右申請人に出会つたところ同申請人は松浦に対し「何故貴様は書かないのだ」となおも詰問し、「貴様のような奴はやつつけるのは訳ないのだ」といいながら左手で持つていた鳶を振り上げ右手で同人の胸倉を掴んで風呂場の方の壁に同人を押し付け、更に同人が便所に入るや同人の背後から「何故書かないのだ」と詰問しながら同人の背中を小突き同人に対し暴行脅迫を加えた、との事実を認めることができ右認定に反する前掲疏甲第一九号証の一、二の記載部分及び申請人五十嵐の本人尋問結果部分はいずれも措信しえず他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

(3) 而して特段の事情の認められない限り就労時間中の者に対する暴行行為は脅迫行為と異なりその者の業務を妨害するものと推認することを得るところ、前記認定諸事実からすると松浦憲保が暴行を受けたのはその就労時間中であるから、申請人五十嵐は松浦憲保に対し暴行を加え、同人の業務を妨害したものと認めるべきである。而して右認定を覆えすに足る他の証拠はない。

(四) 主張事実2の(ニ)について

一月一三日午後二時頃調木係作業場のコンベヤーの所で申請人五十嵐は右松浦に会つたことは当事者間に争がないが前掲疏乙第一三号証の三七、同第五一号証、証人松井の証言により真正に成立したものと認められる同第二三号証の四、証人斎藤新一の証言により同様に作成されたものと認めうる同第二四号証の一、及び右証人松浦、同斎藤の各証言を綜合すると、右松浦が右日時頃二番方勤務として前記調木課作業場の所で作業にかゝろうとしていたところ申請人五十嵐は他の王子労組組合員数名と共同して右松浦を取囲み、「昨日(一二日)原質見張(原質部事務室のこと)に行つて、職場を放棄をしたのはどういう訳か」「我々は話し合いをしているのに吊し上げと報告したのは何事だ。でたらめいうな」と多数で害を加えまじき威勢を示して詰問し同二時二〇分頃に至るまで右松浦の就労を妨害したとの事実を認めることができ右認定に反するところの、前掲疏甲第一九号証の一、二、第三七号証、第一〇〇号証の各記載部分及び証人伊藤勝の証言部分、申請人五十嵐の本人尋問結果部分はいずれも措信しえず他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

(五) 主張事実2の(ホ)について、

一月一四日午後二時過頃申請人五十嵐がスプリツターの所で右松浦と会つたこと、及び同申請人が右松浦のスプリツターの電動スイツチを切つたことは当事者間において争なく、前掲疏乙第一三号証の三七、証人松浦の証言により真正に成立したものと認められる同第二三号証の五、及び右証人松浦の証言によると、申請人五十嵐は右日時松浦が二番方勤務として前記調木課作業場でスプリツター作業中同人に対し「お前は戸巻副部長に何をしやべつたのだ」と詰問し、松浦が「やられたとおりのことを報告した」と答えるや「もう一度いつて見ろ」と詰め寄つて同人の胸倉を掴んでゆすぶり同人がこれを振り切つて作業を続行しようとしたところ同申請人は松浦のスプリツターのスイツチを切つてこれを停止せしめて話し合いを強要し、同人がやむなく上司に報告のため見張へ行こうとするやその前面に立ち塞がつてこれを阻止する等の暴行を加えその間約二〇分に亘つて松浦の業務を妨害した。との事実を認めることができ右認定に反する前掲疏甲第一九号証の一、二の各記載部分、及び申請人五十嵐の本人尋問結果部分はいずれも措信しえず他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

(六) 主張事実2の(ヘ)について

(1) 一月三日申請人五十嵐、同田村は午後〇時一〇分頃から調木課休憩室において垣原信和ら従業員とともに松浦に対しタイムカードの打刻について問答したことは当事者間に争いのないことであるが前掲疏乙第一三号証の三七、同第五一号証、証人松浦の証言により真正に成立したものと認められる同第二三号証の六、疏甲第四〇号証及び右証人松浦の証言を綜合すると、申請人五十嵐、同田村、右日時頃休憩室で休憩中の松浦に対し、「垣原職長が呼んでいるから」と同休憩室の中央辺りに呼び同所で垣原の職長ら約六〇名位の王子労組組合員とともに右松浦を取囲み、同人に対し、同月一九日に同人が欠勤したのに、タイムカードに出退社の打刻があることにつき説明を求めたが同人が知らないと答えるや、申請人五十嵐は同人に対し「斎藤係長とぐるになつているんだろう。重大問題だ」と同人を追及し同人がかゝる状況では事情を説明しても到底聞いてもらえないと思い同休憩室から逃れようとするや、申請人五十嵐、同田村は他の組合員数名とともに出口に立塞がつてこれを阻止し更に後方から松浦の腕を掴んで同人を休憩室の中央迄引き戻し、更に反対側の出口より逃げ出して見張の入口迄行つた同人を追かけて同所で同人の身体を押えて再び右休憩室まで連れ戻す等の暴行を加え、同休憩室内で引き続き「カードを押した理由をいえ」といつて午後〇時三〇分頃まで同人を強要し、更に午後一時三〇分頃申請人田村が太田某とともに松浦を再び右休憩室の中央に連れて来て同所で申請人五十嵐、同田村は一番方勤務の王子労組組合員ら七、八〇名とともに松浦を取囲み同二時迄の間引き続いてタイムカード打刻事情について説明を求め、申請人田村は「正直にいえば今回は穏便に済ませてやる。若しいわなければいう迄帰さない。」「斎藤係長がぐるだということはわかつているのだからお前がいわなければ裁判にかけても徹底的にやつけてやる」と斎藤係長の所為であることの承認を強要し、松浦が多分斎藤係長が押したのだろうと答えると申請人五十嵐はその旨を書面に記載した上松浦に再三にわたつて署名することを強要して署名するに至らせたとの各事実を認めることができ、右認定に反するところの、前掲疏甲第一九号証の一、二、第二〇号証の一、二、第九四号証、第三八号証、第三九号証、第九六号証の各記載部分並びに証人垣原信和、同薄井忠勝の各証言部分、申請人五十嵐同田村の各本人尋問結果部分はいずれも措信しえず他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

(2) 然しながら右認定事実中午後〇時一〇分頃から同三〇分頃迄の申請人らの松浦に対する判示各行為の行なわれた時は右認定各資料によれば昼の休憩時間であつたことを認めうるので右申請人らの行為は何ら松浦の当日の業務を妨害したとは認め難く又同認定事実中午後一時三〇分頃から同二時頃迄の申請人らの松浦に対する判示行為も同認定各資料によればその時は松浦の勤務時間中ではあつたが既に同職場の作業は終了した後であつたことを認め得るので申請会社らの右行為も亦何ら松浦の当日の業務を妨害したものということはできない。

そうすると被申請人の右主張は結局この点において理由がない。

(七) 申請人らの右(一)乃至(六)の行為の懲戒解雇基準該当性

右(三)(被申請会社主張の解雇事由番号2(ハ))、(四)(同(二))、(五)(同(ホ))の申請人五十嵐の各行為は懲戒解雇基準第二号に該当し、(一)(同(イ))、(二)(同(ロ))、(六)(同(ヘ))の申請人五十嵐、同田村の各行為は右基準に該当しない。

(八) 尚被申請会社は右(イ)乃至(ヘ)の事実について全体として懲戒解雇基準第二号に該当すると主張するが右事実については判示のとおり個別的に判断をなしたから改めて全体として再判断しない。

3、〔同申請人らに対する解雇事由3(斎藤係長等の業務指示違反)について〕

(1) 一月二三日申請人五十嵐、同田村が同月一九日斎藤新一調木係長が松浦のタイムカードの退社時刻を同人に代つて打刻したのは就業規則違反であると職制にいつたこと及び従業員が業務につかず工場の操業が停止したことは当事者間に争いがないが、前記証人斎藤新一の証言により真正に成立したものと認められる疏乙第二四号証の二、その成立につき争のない同第一三号証の一〇、一三、一四、弁論の全趣旨から真正に成立したものと認められる同第四八、第五四号証及び右証人斎藤、同荘英介の各証言を綜合すると、一月二三日申請人五十嵐、同田村は一番方として午前七時より勤務すべきところ垣原信和ら一番方及び常日勤の王子労組組合員とともに右タイムカード打刻問題が解決しない限り就業しないといつて就労を拒否し、その後斎藤係長、小出谷調木課長、山谷原質部副部長らが再三に亘つて就業を命じたが調木課の業務が停止するのを知りながら垣原等とともに故なくこれを拒み同課の操業を停止せしめることにより同日午前一〇時三〇分頃より翌二四日午前六時三〇分頃までの間工場の全操業をも停止せしめ職場の秩序を著しく乱すとともに会社の業務の運営に重大なる支障を与えたとの事実を認めることができ右認定に反するところの前掲疏甲第一九号証の一、二、第二〇号証の一、二の各記載部分証人池田元男の証言部分、申請人五十嵐、同田村の各本人尋問結果部分は措信しえず他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

(2) 尚申請人らは右操業の停止は斎藤係長が同月一九日就業規則に違反して松浦に差別扱いしたことにつき申請人ら従業員に対し、誠意ある態度をとらなかつたためになしたものであると抗争するが、仮に斎藤係長に申請人らの主張するが如き就業規則違反行為があつたとしてもそれは右係長と被申請会社との関係事項であり従つて申請人らが右事項についての斎藤係長の態度を非難する趣旨としても右はその就労までも拒否する正当な理由ということを得ない。

(3) 右は懲戒解雇基準第三号に該当する。

二、申請人荒田に対する解雇事由

1、〔同申請人に対する解雇事由1(塚田電気部長の業務妨害)について〕

(1) 昭和三三年一二月一五日申請人荒田が電気部所属の従業員とともに塚田電気部長に会つたことについては当事者間に争がないが、更にその成立に争のない疏乙第三七号証の一、二、第三八号証の二、三、証人塚田重の証言から真正に成立したものと認められる同第三八号証の一、同甲第四三号証、弁論の全趣旨から同様に成立したものと認められる同乙第五七号証及び右証人塚田の証言を綜合すると申請人荒田は千葉原動部門委員長の外二名の者とともに午後四時頃より電気部長室において電気部所属の従業員中の王子労組組合員約四十数名が塚田電気部長を取囲み、同部長に対し話し合いをせよと要求した際これに参加し、同部長がこのように多数で威圧的態度で取囲むような状態では話し合いに応ぜられないし、組合の要求であれば勤労部へいつて貰いたい旨を述べて再三これを拒んだにもかゝわらずなおも執拗に迫り、申請人荒田らは他の組合員らの先頭に立つて同部長に対し「今話を聞いて貰えなければ明朝の出勤をしない」と称して困惑させ、同部長がその所管する職場の操業状況の巡視のため強いてその席を立つて同室の出口の方に行きかけるや周囲にいた従業員らが一斉に総立ちとなつて口々に「逃げるのか」「話がつくまで外え出さぬ」などと大声で叫ぶなかで申請人荒田は自ら同部長の右腕を掴んで引つぱり、同部長がこれを振り切ろうとしても離さず同部長をして退室を断念せしめてもとの席に戻らしめ、つゞいて番割の編成替を含む十数項目に亘る要求事項をつきつけてその回答を迫るなどして、同部長をして回答しなければ如何なる事態を惹起するか解らぬものと惧れさせ午後五時半頃にいたり遂に一時間後に右要求事項について回答する旨約束せしめるに至るまでその退室の自由を拘束してその業務を妨害し、引続き同日午後六時半頃から同八時頃までの間申請人荒田は右千葉委員長を初めとする電気部所属の組合員約五〇名とともに右塚田部長の約束を楯にとり、電気部第二応接室において同部長より先の要求事項について回答を強要し、更にその際議事確認書なる文書に捺印することを迫り同部長をしてその旨約束せしむるに至りその間同様に同部長の業務を妨害したとの各事実を認めることができ右認定に反するところの疏甲第二二号証の一、第四二号証、第四九号証、第一〇五乃至一〇七号証の各記載部分並びに証人畠山祐治の証言部分、申請人荒田の本人尋問部分はいずれも措信しえず他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

(2) 右は懲戒解雇基準第二号に該当する。

2、〔同2(川村汽力部長等の指示違反及び業務妨害)について〕

(1) 右同日午前八時三〇分頃より川村武夫汽力部長が第一汽罐係休憩室において第二汽罐係を除く汽力部従業員に対して挨拶をしたこと及び仁和課長代理が就労番割編成を発表したこと、その際従業員中よりその勤務割は従来の慣行に反しているからもと通りにせよとの旨述べられたこと、川村部長が再度その場に来たことと、及び同部長が役付の者だけを別室に集合させようとしたことはいずれも当事者間に争のないことであるが、更に前掲疏乙第一六号証、証人浜谷文輔の証言により真正に成立したものと認めうる同第三〇号証、証人仁和武の証言により同様に成立したものと認めうる同第三二号証の一、証人斎藤政市の証言により同様に成立したものと認めうる同第三三号証の一、成立に争のない同第四号証、弁論の全趣旨により成立したものと認めうる同第五九号証、第六三号証、右宮崎府央、同右浜谷、同仁和、同斎藤の各証言を綜合すると右日時川村部長が従業員約八〇名に対して業務開始の前提として入構の挨拶をした際申請人荒田は右従業員中の王子労組組合員(右従業員中の大部分を占めている)らとともに終始怒号して右部長の挨拶を妨害して気勢を昂げその後同部長は浜谷文輔汽罐課長とともに一旦事務所に引き揚げその場に残つた仁和武汽罐課長代理が午前九時頃から就労の番割編成を発表してこれに基いて即時作業に就くよう再三に亘つて指示したがその間申請人荒田は業務開始に支障の生ずることを知りながら他の組合員らの先頭に立つて同課長代理に対し「この番割は従来どおりではない。慣行に違反している。もとどおりにせよ」といつて騒ぎ立て右課長代理がこれについて説明をしても一々難癖をつけてこれを妨害して、同課長代理の就業すべき旨の右業務指示を正当な理由もなく拒み、その後同九時二〇分頃、再び川村部長、浜谷課長が右休憩室に来て事情を説明してこの編成で就業するよう指示したがこれに対しても、「全然でたらめだ。スト前の方法が一番いゝんだ。やりなおすべきだ。」といゝ張つて同様に拒否し、同九時三〇分頃川村部長がこのような状態ではとうてい操業に入れそうにもないので役付の者だけを別室に集合させて番割編成を説明しようとしその旨を従業員に告げて仁和課長代理らとともに同休憩室を出ようとしたところ、申請人荒田はやにわに「出すな」と大声でまわりの組合員らに指示して、組合員らをして同部長らを取囲ましめ、その身体を押えてその退出を阻止させた上で、同部長に対し「この場で発表しろ」と強要して同部長らをもとの位置迄押しかえし、午前一〇時頃までの間右川村部長、浜谷課長、仁谷課長代理の退室の自由を奪つて拘束し、その間同部長らの業務を妨害し、併せて同部長らの業務上の指示に従わず職場秩序を著しく乱すとともに業務の正常な運営に重大な支障を与えた。

この事実を認めることができ右認定に反するところの、前記疏甲第二二号証の一、第四四乃至四八号証、第一〇九、第一一〇号証の各記載部分及び証人萱場武儀の証言部分、申請人荒田の本人尋問結果部分はいずれも措信しえず他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

(2) 右は懲戒解雇基準第二号、第三号に該当する。

3、〔同3(浜谷課長等の業務妨害)について〕

(1) 一二月一七日午後三時三〇分頃浜谷課長、仁和課長代理が川村部長の不在の理由を説明したこと、その場で従業員が争議中の浜谷課長らの不当労働行為について同課長らに対し色々といつたこと、仁和課長代理が「組合員に話したことに遺憾な点があつた。今後かようなことはしない。」という趣旨の文書を作成したことについては当事者間に争がないが、更に前掲疏乙第四〇号証、右証人浜谷の証言により真正に成立したものと認められる同第三一号証、右証人仁和の証言により同様に成立したものと認められる同第三二号証の三、四、同証人浜谷、同仁和の各証言を綜合すると、右日時頃、汽力部の佐々木太他二名の職場委員長らが勤務中の浜谷課長及び仁和課長代理に対して、川村部長がいないなら同部長に代つて職場の明朗化について話を聞きたい旨申し入れ、同課長らがこれを断つたところ「非番者が大勢待つており自分達の口から部長の不在を伝えても承知してくれないので課長から部長が不在で出席できないというだけでも説明してくれ」と執拗に要求したので、浜谷課長はやむなくそれでは川村部長が不在だということだけを説明するという確約のもとに仁和課長代理とともに第一汽罐係保全休憩室に赴き、同休憩室にいた汽力部の王子労組組合員約七〇名に対し、川村部長の不在の理由を説明して帰ろうとしたところ、右組合員らは口々に「課長の話を聞け」と叫び約二〇名の者が出口の扉の前に立ち塞がり、更に長椅子を横にして浜谷課長らの退出を完全に阻止する態勢をつくりつゞいて腰掛けさせた上で、「我々の話を聞いて回答して貰いたい」と主張し浜谷課長に対し、「西口に対して組合脱退を強要した」「青帽が出構の際窓から手を振つた」「東北門で組合員が警官と衝突しているときこれを見て笑つた」などのことがあるとして、これらは凡て不当労働行為であると称し、質問の形式を仮装して応答を強要しながら、口々に同人を難詰非難し浜谷課長がやむなくこれに答えて問答を終了しようとするも耳をかさず一方的に不当労働行為呼ばわりをして罵詈雑言を浴びせたが、その間申請人荒田は終始これらの組合員の先頭に立つてこれを煽動し同課長が不当労働行為をしたとは思わないと答えるや、「みんなが課長に質問しているようなことは全部不当労働行為である」と叫んでその場の気勢を煽り、ために組合員らもこれに同調して口々に「課長のやつたことはみんな不当労働行為だ」「そうだそうだ」「そんなことが不当労働行為であるということを知らんのか、課長のくせに能なしだ」と一層激しくその場の雰囲気を熱せしめ、同課長をして事態を避けてその場を退去しようとすれば如何なる危害を加えられるかも解らないと惧れさせて、その場に留らしめ午後六時三〇分頃浜谷課長が急用のためその場を去るや、組合員らは引き続きその場に残つた仁和課長代理に対しても争議中に同課長代理が不当労働行為を行つたと称し、右同様に同課長代理を難詰し、申請人荒田は「そういうことはみんな不当労働行為だ」といつて組合員らの気勢を煽り、組合員らもこれに同調して「そうだそうだ」と叫び喧騒な罵詈雑言を浴びせて惧れさせて退出させず、申請人荒田は、同課長代理に対して「不当労働行為を行つたと書け」と執拗に強要し、午後七時三〇分頃同課長代理がやむなくその意に反して前記遺憾の意を表明する文書を作成するに至るまでそれぞれ浜谷課長、仁和課長代理の各退室の自由を拘束し、その間同課長らの業務を妨害したとの事実を認めることができ右認定に反するところの、前記疏甲第二二号証の一、第五〇号証、第一一一号証、第一一二号証の各記載部分、証人小野寺幸雄、前記証人萱場の各証言部分、申請人荒田の本人尋問結果部分はいずれも措信しえず他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

(2) 右は懲戒解雇基準第二号に該当する。

4、〔同4(斎藤係長の指示違反)について〕

(1) 前掲疏乙第四〇号証、成立に争のない同第三九号証、証人斎藤政市の証言により真正に成立したものと認められる同第三三号証の二、弁論の全趣旨から同様に成立したものと認められる同第七四号証、右証人斎藤の証言によると、

一二月一六日午前九時頃斎藤政市第一汽罐係長が第一汽罐係の職場を巡廻して、保全作業場に行つて見たところ保全の一般職の従業員である王子労組組合員一〇名は作業に就くことなく被申請会社から作業を請負つて右保全作業場にパルプ修理作業に来ていた厚生鉄工の佐藤政志以下五名の請負作業員に対し「我々の作業場で請負の作業をさせることはできないから出て行つて貰いたい」といつて退出を求めていたので右斎藤係長は同所で右組合員に対して「スト中に請負が仕事をしていたのは当然のことだ。現在も仕掛中の仕事も残つておりこれをやつてもらうのは当り前のことだ。二五日迄一〇日位で終るのだから協力して貰いたい」旨述べたこと。而して午前一〇時頃申請人荒田は右紛争の場所に来て右斎藤係長に対し「皆が請負業者に出て貰いたいというのだから皆のいうとおりにしてやれ」と要求したので右係長は同申請人に対し、「君の関係したことではない。君は汽罐運転の組長だ仕事に就きなさい」と命じたが同申請人は「俺は執行委員だ」といつてこれに応ぜず、約二〇分に亘つて右係長の指示に従わず自己の職場を放棄したこと、尚右厚生鉄工の請負作業は右紛争の結果中止せられたことの各事実を認めることができ右認定に反するところの、疏甲第八一号証、第一一八号証の各記載部分、前記証人小野寺の証言部分、申請人荒田の本人尋問部分はいずれも措信しえず他に右認定を覆えするに足る証拠はない。

(2) 然しながら懲戒解雇基準第三号にいうところの業務上の指示違反と業務支障との関係は被指示者がその業務上の指示に正当な理由なく従わないためその職場の業務について発生したる支障を指称するものと解するところ、右認定のとおり斎藤係長が申請人荒田に対してなした業務上の指示は同申請人が汽罐運転の組長としてその担当の職場において就業すべき旨の指示であるにかかわらず、申請人荒田の右指示違反によつて汽罐運転の業務に支障を生じたとの点については疏明がなく、また厚生鉄工が会社から直接下請してなしている作業に支障が生じたとしても右作業は申請人の指示された汽罐運転の業務とは、何ら関連を有するものではない。従つて被申請会社の右業務支障の主張は失当であり、同申請人の判示所為は懲戒解雇基準第三号には、該当しない。

5、〔同5(斎藤係長の指示違反、仁和課長代理等業務妨害)について〕

(1) 昭和三四年一月一五日午前七時頃、当日勤務の第一汽罐係の保全担当の従業員約一〇名及び同係の汽罐担当の非番者六、七名(いずれも王子労組組合員)が保全休憩室に集合したこと、斎藤政市係長が右組合員に対し就労及び退社を命じたが組合員らはこれに従わなかつたこと、同係長が休憩室を出ようとしたこと、仁和課長代理がその場に来たこと、申請人荒田が水野組長に会つたこと、及び同申請人が午前九時四〇分頃まで職場内に留つたことはいずれも当事者間に争のないところであり、更に前掲疏乙第四〇号証、証人仁和武の証言により真正に成立したものと認められる同第三二号証の二、証人斎藤政市の証言により同様に成立したものと認められる同三三号証の五、弁論の全趣旨から同様に成立したものと認められる同第六〇号証、右証人仁和、同斎藤の各証言を綜合すると右日時申請人荒田外右王子労組組合員が保全休憩室に集まり、内当日勤務の組合員が作業に就かないのでこれを知つた斎藤政市係長が同休憩室に赴き右集合していた組合員に対し勤務者は直ちに作業に就くべき旨の業務命令をなし、非番者は即刻退社するように指示したが右組合員らはいずれもこれに応ぜず申請人荒田は卒先して同係長に対し「丁度よい所え来た。坐つて話したらどうだ」「沢山話すことがあるから坐つて話せ」といつて同係長を引き止めようとしたが、同係長がこれを拒否して再三右同様の業務命令及び指示を与えると、同申請人は「係長がなんだ」「係長だと思つてその横柄な態度は何だ」と同係長に喰つてかゝり、同係長が休憩室から出て勤務場所に戻ろうとするや、いきなり自ら数名の組合員とともに同係長を取囲み、同係長の両腕を掴んで強引に休憩室内に引き戻そうとし、同係長がこれを振り切つてようやくにして休憩室の外え逃れ出たところなおもこれを追つて同係長の左腕を押えて引き止める等の暴行を加え、もつて同係長の業務を妨害し、更に同七時四五分頃右状況を聞いてその場に来た前記仁和課長代理が申請人荒田に注意を与えたところ同人は多数の組合員らとともに同課長代理を包囲し自ら同課長代理に飛びかゝつてその首に抱きつき、更に無理矢理に腕を引つ張つて勤務中の同課長代理を右休憩室内に引きずり込もうとするなどの暴行を加えもつて同課長代理の業務を妨害し、併せて同職場内の秩序を著しく乱し、もつて午前八時半過に前記組合員中当日勤務者が作業に就くまで同係の保全職場の業務を停止せしめて操業に支障を与えたとの事実を認めることができ右認定に反するところの前掲疏甲第二二号証の一の記載部分、証人小野寺幸雄の証言部分、申請人荒田の本人尋問の結果部分はいずれも措信しえず他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

(2) 更に右認定に資した各証拠からは被申請会社の主張する如く、申請人荒田は同八時五〇分頃から水野保全組長に対して、同組長が斎藤係長に対する同申請人の前記暴行の事実を仁和課長に報告したことはけしからんといつて喰つてかゝつた事実も認めることができるが右の事実では同組長に対する脅迫の程度迄に至つたものとは認められず且つ又右事実は前項の各事実と一連関係を有するもので、職場の秩序を一応乱したことにはなるが、然しその時は既に前記認定の如く当日勤務の組合員が作業に就いたあとでもあるから保全職場の操業に支障を来たしたとまで認めることはできないので被申請会社の右主張部分は失当である。

(3) 尚申請人荒田は同申請人は当日非番なので自らの業務を拒否したことはないと抗争するが懲戒解雇基準第三号にいう業務上の指示は監督下の作業員に対する就労指示の場合の外更に職制が監督指示する権限と義務を持つ業務の円満な遂行又は操業継続のためになす妨害排除のための指示例えば非番者等に対する退社指示をも包含するものと解するを相当するから、前記斎藤係長の指示に反して退社しなかつた申請人の判示所為は業務上の指示に違反したこととなり、申請人の右抗弁は理由がない。

(4) 申請人荒田の右(1)の行為は懲戒解雇基準第二号第三号に該当する。

6、〔同6(斎藤係長等の業務指示違反)について〕

(1) 一月二七日申請人荒田は一番方勤務として同日午前七時より午後一一時迄勤務すべきであつたこと、同日午前一〇時より午後〇時迄王子労組執行委員会に出席することゝなつていたこと、湯浅職長から右委員会出席について不就業届を提出するようにいわれたこと及びそれにもかゝわらず右届を提出しなかつたこと、同日午前一〇時から午後〇時まで職場に居なかつたことは当事者間に争がなく、更に証人斎藤政市の証言により真正に成立したものと認められる疏乙第三三号証の七、弁論の全趣旨により同様に成立したものと認められる同第六六、六七号証及び右証人斎藤の証言によると、なるほど同日申請人荒田は右不就業届の提出については斎藤係長から命ぜられ且つ右湯浅職長からも命ぜられた際には届出用紙をも渡されていたこと、及び斎藤係長からは当日執行委員会に出席する以外の時間は就労し、六号汽罐の排水作業をなすべき指示をうけていたこと、それにもかゝわらず午前九時頃より同一〇時頃まで及び午後〇時頃より同一時三五分にいたる間も無断で自己の職場を放棄し、右午前の職場放棄により第一汽罐の六号罐におけるパツキング取替作業が約一時間にわたつて遅延したとの各事実を認めることができ右認定に反するところの、疏甲第一一九号証及び申請人荒田の本人尋問結果部分は措信しえず他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

(2) 然しながら不就業届不提出によつて会社の賃金控除の業務が支障を生じたとする被申請会社の主張事実についてはこれを認めるに足る資料はない。又前示認定の申請人荒田の職場放棄による六号汽罐のパツキング取替作業の遅延は懲戒解雇基準第三号にいう業務支障と認めるべきであるが然し右認定事実によれば同申請人の職場離脱が執行委員である同申請人が適法な執行委員会への出席に引続いたものであることが認められるので、他の勤務者に影響を与えたものとは推認できず未だ職場の秩序を著しく紊したものと迄認定することは出来ず他にこの点を認めるに足る資料はない。

(3) そうすれば被申請会社の本件解雇事由がある旨の主張は失当である。

三、申請人荒に対する解雇事由

1、〔同申請人に対する解雇事由1(戸巻副部長等の業務指示違反)について〕

(1) 昭和三三年一二月一五日午前一一時頃原質部抄取調成課調成係オリバー前で戸巻原質副部長が番割編成の発表をしたこと、その際従業員中より異議が出たこと。午後一時三〇分頃右番割編成が撤回されたこと、及び午後二時四〇分頃まで就労しなかつたことについてはいずれも当事者間に争がなく、更に前掲疏乙第一六号証、第一九号証、成立に争のない同第四二号証、第四四号証の一、証人戸巻運吉の証言により真正に成立したものと認められる同第四三号証の一、弁論の全趣旨から同様に成立したものと認められる同第七五号証、第八七号証、及び右証人戸巻、同中野匡雄の各証言を綜合すると右日時山谷幸之助原質副部長、戸巻運吉原質副部長兼抄取調成課長らが調成係オリバー前において抄取調成課の従業員約二二〇名(内王子労組組合員約一八〇名、王子新労組組合員三六名)に対し、就労方法の説明並びに就労の番割編成を発表した際、申請人荒は北畠昭三、横山久弥らとともに右王子労組組合員の先頭に立つて同副部長らに対し、「スト前の番割編成と違う」「中山あつせんの趣旨に反する」「何故変更したのか」「青帽の係長がやつたのだろう」などといゝがかりをつけ、戸巻副部長らが説明を加えて再三にわたり右編成にもとづいて就労するように命じたが業務の運営に支障を生ずることを知りながら「編成をスト前のものに変更しない限り仕事なんかできるものか」と番割の変更を先ず要求して就労を拒否し、戸巻副部長らが業務の開始が長く遷延することを惧れ午後一時三〇分頃やむを得ずその番割編成を撤回して、争議前の編成で即時作業に就くように命ずるや、申請人荒は右北畠とともにすかさず王子労組組合員の先頭に立つて同副部長に対し「休憩室を拡張して貰いたい」と要求し、その他にも要求が沢山あると称し、同副部長が「そのような要求は職制を通じて提出されたい。今日は操業が遅れており直ちに就業するように」と命じたがきかず更に同申請人は「我々の要求を聞いてくれ。これ全部決らなければ駄目だ。仕事をしない。」「晩飯を準備して徹夜でもやる」と称し番割発表及び就業指示があつたにかかわらず依然として就業をしようとはせず結局午後二時四〇分に至るまで右戸巻副部長らの就業指示に従わず職場秩序を著しく乱すとともに業務の正常な運営に重大なる支障を与えたと認めることができ右認定に反するところの、疏甲第六四号証の四、第二一号証の各記載部分及び証人北畠和三の証言部分、申請人荒の本人尋問結果部分はいずれも措信しえず他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

(2) 申請人荒の右(1)の行為は懲戒解雇基準第三号に該当する。

(3) 尚被申請会社は右事実につき同時に申請人荒らが戸巻副部長らをして番割変更を撤回せざるを得なくせしめ或はその後別の要求事項を提出したことにつき懲戒解雇基準第二号に該当するものと主張するかのようであるが戸巻副部長らに対して暴行、脅迫又はこれらをもつてする強要などをなしたことを認めうるに足る資料はない。

2、〔同2(中野係長の業務妨害及び指示違反)について〕

(1)(イ) 右同日午前一〇時三〇分頃中野匡雄抄取係長が第一三号マガジン室において原質部従業員及び主婦連ら約一、〇〇〇名いる所で右従業員らに対して挨拶したことは当事者間に争がないし、更に前掲疏乙第四二号証、第四四号証の一、証人中野匡雄の証言によると、右中野係長が第一三号マガジン室において挨拶したのは申請人荒が再三にわたつてそのことを同係長に対して要求したからであり且つ同係長が挨拶中、同所にいた従業員中の王子労組組合員らが口々に同係長に対し「裏切者」「犬」「中野、この野郎」などと罵言を浴びせたとの各事実を認めることができ右認定に反する証人北畠昭三の証言部分、申請人荒の本人尋問結果部分は措信しえず他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

(ロ) 然しながら右認定事実によるも申請人荒が右中野係長に対し暴行、脅迫による業務妨害をなしたと認めうることはできず、他に右主張事実を認め得る資料はない。

(ハ) 従つて右の懲戒解雇基準第二号該当の主張は失当である。

(2)(イ) 同日午後申請人荒が右中野係長に対して操業上の指示を求めたこと、同係長及び戸巻仁三郎、新田勝雄、小野田辰雄、工藤宗雄の四職長が抄取休憩室に来て王子労組組合員のいるところで、就労の指示をしたことはいずれも当事者間に争がないが、更に前掲疏乙第四三号証の一、第四四号証の一、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる同第七八号証、第八四号証及び右証人中野、前記証人戸巻運吉の各証言を綜合すると同日午後二時四〇分頃前記1に引き続いて業務を拒否したまゝ、申請人荒は執務中の右中野係長に対し「操業上の指示をしてほしい」と偽つて同係長及び同係の右四職長を抄取休憩室に呼び出した上、同室に待機していた抄取係、外他係の王子労組組合員、及び主婦連の者合計約一〇〇名の者らをもつて同係長、及び右各職長を取囲み、申請人荒はその先頭に立つて中野係長に対し、就労の指示並びに挨拶を求め、同係長がこれを終えて退室しようとしたところ、就労の指示に従わず取囲んだまゝの態勢で退室を阻止し、申請人荒は質問者を指名して次々と同係長に対し質問させ、まわりの組合員らは「裏切者」「そんなことでは我々は協力できない」「組合(王子労組のこと)に帰らない限り駄目だ」「辞めてしまえ」などと大声で罵声を浴びせる中で、申請人荒は「部長が第一組合(王子労組のこと)一本になるように努力すると約束した」「部下がみんな協力しないということであれば係長はそれで仕事ができるか」といつて同係長をして応答に窮せしめ同係長が王子労組に復帰することを執拗に求め、まわりの組合員は更に「辞めてしまえ」「馬鹿野郎」などと大声で叫び又「洗濯かけろ」といつて脅迫し、同係長が沈黙して一時その場の空気が静かになるや申請人荒は「みんなこれでいゝのですか」といつて他の組合員らの気勢を再び煽り、これがためその場の空気は益々険悪となり、次々と同様の方法をもつて回答を強要しつつ各職長らに対してもその退室を阻止したまゝ罵声を浴びせかくして同五時二〇分頃にいたるまで中野係長外四職長を脅迫してその退室の自由を拘束してその場にとゞまらしめてその事務を妨害し、併せて就労を拒否したまゝ職場の秩序を著しく乱し、会社の業務の正常な運営に重大なる支障を与えた、との事実を認めることができ右認定に反するところの、疏甲第六四号証の二、同第二一号証、同第一三〇号証の各記載部分、証人北畠昭三の証言部分及び申請人荒の本人尋問結果部分はいずれも措信しえず、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

(ロ) 右は懲戒解雇基準第二号に該当する。尚被申請会社は右事実についても同基準第三号に該当する旨を主張するが右の業務拒否職場秩序紊乱等の行為は結局前記1の戸巻副部長らの業務指示に対する拒否と一連するものと見るを相当とするから特に改めて右基準にもとづき評価すべきではない。

(3)(イ) 尚同日午後更衣箱四個が抄取係の試験室内に移動されたことは当事者間に争がないし、更に前掲疏乙第四三号証の一、同第四四号証の一、右証人中野の証言により真正に成立したと認められる同第四五号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる同第七七号証、第七九号証、右証人中野、前記証人戸巻の各証言を綜合すると右更衣箱の移動は同日午後六時頃申請人荒が多数の王子労組組合員を指揮して抄取係事務室内から右中野係長の制止命令を無視して職場大会の決議だと称して右試験室に運びこんだため同室において行われていたシートマン品質検査及び濃度試験の実施に若干不便を生ぜしめたことが認められ右行為は同時に職場の秩序を乱したものであることを認めることができ右認定に反する疏甲第一三〇号証の記載部分証人北畠昭三の証言部分、及び申請人荒の本人尋問の結果部分はいずれも措信しえず他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

(ロ) 然しながら当時晒の作業は停止していたのであるから右の試験業務に与えた不便はこれをもつて懲戒解雇の基準として予想されている程度の業務支障とまでは解し難く、他に同号の予想する如き業務支障を生じたことを認め得る資料はない。

(ハ) 従つて被申請会社の右解雇事由の主張は失当である。

3、〔同3(中野係長の業務妨害)について〕

(1) 一二月一七日午後二時頃より抄取係の従業員中の王子労組組合員が職場集会を開いたこと、右集会に中野係長が来たことは当事者間に争がないが、更に成立に争のない疏乙第四四号証の三、証人北畠昭三の証言により真正に成立したものと認められる疏甲第六六号証、弁論の全趣旨から同様に成立したものと認められる疏乙第八〇号証、右証人中野の証言を綜合すると、

右日時申請人荒は会社に無断で抄取係休憩室において職場集会を開催し、午後二時五分頃、右中野係長に対し「課長が職場の要求は係長を経て来いといわれた」と称し、同係長を右抄取係休憩室に呼び出し、同所で抄取係の王子労組組合員の外他係の者をも交え約八〇名の多数をもつて同係長を包囲し、申請人荒は多数の職場要求を同係長に突きつけて回答を求め、同係長がやむなくこれに応答したところ、まわりの者らは「係長は権限がないといつて逃げるが、権限がないなら係長を辞めたらどうだ」「辞めろ」「我々はかゝる係長には協力できない」などと大声で叫んで罵詈雑言を浴びせ、同係長がこれに耐えかねて退室しようとして出口の方へ行こうとするや、申請人荒はその前に立塞がつて同係長の退出を阻止しながら「みんなの意向はどうか」といつて他の組合員らの気勢を高め、なおも同係長を同室内におしとどめ、他の組合員らは「何故部下を捨てゝ脱退したのか」「脱退(王子新労組を)しない限り協力出来ない。」「第一組合(王子労組)の者と絶対に話をしないことを誓約しろ」などと詰め寄り、午後三時半に至るまで右中野係長の退室の自由を拘束してその業務を妨害したとの事実を認めることができ右認定に反するところの、前掲疏甲第二一号証、第六四号証の三、第一三〇号証の各記載部分証人北畠昭三の証言部分、及び申請人荒の本人尋問結果部分はいずれも措信しえず、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

(2) 右は懲戒解雇基準第二号に該当する。

4、〔同4(中野係長等の指示違反)について〕

(1) 昭和三四年一月二六日抄取係において従業員中王子労組組合員が「前日の二四日三直の抄終いに新田、小野田両職長を午前五時より同七時までの間勤務させたがその作業内容は当直作業でありその点説明を求める」として中野係長、工藤、戸巻仁三郎両職長に対して説明を求めたこと、申請人荒が勤務終了時である午後二時迄就労しなかつたことは、当事者間に争がないところ、更に成立に争のない疏乙第四四号証の四、第一三号証の一五、前記証人戸巻運吉の証言により真正に成立したものと認められる同第四三号証の二、弁論の全趣旨により同様に成立したものと認められる同第八八号証、第九〇号証、第九一号証、第九六号証、右証人戸巻、同中野及び同荘英介の各証言を綜合すると、右抄終い問題を主唱し出したのは同二六日の一番方勤務の抄取係の従業員二一名中王子労組組合員一八名であり、同人らは抄取休憩室にたむろし右抄終い問題について納得できる説明がある迄は作業に就かないと称して中野係長、工藤、戸巻仁三郎両職長らの再三に亘る就業命令を拒み続けたが、その間にあつて申請人荒は当日は同係の一番方の組長の地位にありながら右組合員らの就業拒否を支持し自らもこれらの者とともに右中野係長らの就業命令を拒否して同日午後二時の勤務終了時に至るまで就労せず、更に引続いて申請人荒は同日の二番方勤務(同日午後二時より同九時迄)の従業員中の王子労組組合員一七名に対しても同様の問題を主唱せしめて就業を拒否せしめ、遂に同日午後八時一〇分頃に至るまで職場の秩序を著しく乱し、会社の正常な業務の運営に支障を与えたとの事実を認めることができ右認定に反する前掲疏甲第二一号証、同第一二七号証、第一二八号証、第一三〇号証の各記載部分、証人横山久弥の証言部分、申請人荒の本人尋問結果部分はいずれも措信しえず他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

(2) 右は懲戒解雇基準第三号に該当する。

第三、申請人ら主張の無効原因について判断する。

一、懲戒処分手続の瑕疵について。

1、申請人主張のように、被申請会社と王子労組間に締結されていた労働協約第五〇条(現在失効中)に組合員に対する懲戒処分は懲戒委員会の答申に基いてこれをなす旨の規定があること、苫小牧工場における懲戒委員会規則によれば懲戒委員会は会社側組合側双方六名づゝの委員をもつて構成され、同委員会は審議を尽して答申することを定めていることは当事者間に争のないところである。

2、被申請会社は先ず右のような懲戒委員会による審議答申手続は、中山あつせん案第四項が労使間に従来争のない協約条項は「なるべく」従来の慣行によると定めているに過ぎないから必らずこれを経なければならないというものではないと主張するが、協約の懲戒処分についての懲戒委員会に関する右規定は右あつせん案の趣旨に照し、その性質上当然遵守さるべきものであり、本件の如き懲戒処分をなすには懲戒委員会の審議答申の手続を経なければならないものと解すべきである。

3、次に申請人らは右協約第五〇条は法的拘束力はないけれども、なお中山あつせん案第四項に基ずいて、労資間において尊重さるべき手続であるからその手続を完全に経由しない本件懲戒処分は権利の濫用であると主張する。

よつてその手続の経過の点について判断する。

その成立に争のない疏甲第二号証の一乃至三、第三号証の一、二、第四号証の一乃至四、第六号証、第一一号証の一乃至七、第一二号証の一乃至一〇、第一三号証の一乃至三、第一八号証の二、疏乙第一二号証の五、同号証の一七乃至二〇、第一三号証の一八乃至二三、同号証の二七、同号証の三〇、同号証の三二乃至四八、同号証の五〇乃至六四、第一四号証の一乃至一二、同号証の一四乃至二三、第一七号証の七、証人海堀釁の証言により真正に成立したものと認められる同第一七号証の一乃至五、同号証の六の一乃至一六、第一八号証、及び右証人海堀の証言を綜合すると一応次の諸事実を認めることができる。

(1) 被申請会社は昭和三四年一月三一日王子労組苫小牧支部長市川年雄に対し申請人らに対する本件主張の解雇事由を略示して処分原由事項とし、他の王子労組組合員を含めた三五名(総事件数八二件)に対する処分原案を示して懲戒委員会を開催したい旨を申入れたこと、その際被申請会社は事態の緊急性に鑑み委員会の開催を早急になしたいとして開催日を同年二月七日午前九時と指定したこと、右の通知は海堀勤労部長名をもつてなされたが、右部長は同時に委員会委員長であつたこと。

(2) ところが王子労組は右の処分事由はいずれも話し合いで解決すべきことであり右の事由を含めて団体交渉の過程にあるものであるから懲戒委員会の開催は必要ないとして即日これを拒絶したこと、被申請会社は二月二日から六日までの間、連日王子労組に対して懲戒委員会の開催の必要性を文書をもつて申入れ、予定した七日の委員会開催を督促したこと、組合側はこれに対し、飽くまで団体交渉の問題であるとしてこれを拒絶し、却つて右四日には改めて「懲戒委員会開催の件」を交渉の議題とする団体交渉の申入れをなし、七日午前九時の委員会開催に応じなかつたこと。

(3) 同月七日中央労働委員会中山会長から双方に対し「組合は会社通知の懲戒委員会に応ずること。」とする条項を含む勧告があり、組合は同月一一日これを受諾したので翌一二日午前十時に委員会を開催することに合意したこと、ところが組合側は組合の内部事情を理由に委員会開催を翌一三日に延期方を申入れ、第一回の委員会は右一三日初めて開催されたこと。

(4) 委員会は同月一三日から同年三月一七日に至るまで前後一六回開催されたが、二月二四日の第五回までは、組合側委員は、その審議に先立ち、疑義の解明と称して、処分内容が既に報道機関によつて発表されたことに対する会社側の責任追及、中山勧告に関する会社側作成の勤労ニユース紙の記載内容に対する釈明、勧告自体に対する会社の見解を求めて、処分事由に対する審議に入らなかつたこと。

(5) 第五回の委員会において組合側は処分事由の討議に入ることを承諾したが第六回から三月五日の第九回に至るまでの間は、事由審議の前提問題であるとして「職制の権限」「業務命令」「暴行吊上」等についての会社側見解の表明を求めるとともに、「組合職場組織」「職場活動」「非組合員の懲戒手続」等九項目についての会社側見解を求めて具体的事由の審議に入らなかつたこと、その間会社側委員は再三審議の促進について申入れをなしたこと。

(6) 三月七日第一〇回委員会開催後、具体的事由の審議に入り、爾後申請人五十嵐、同田村については第一一回、第一二回、申請人荒田については第一一回、第一五回、申請人荒については第一三回の各委員会において一応審議が終了したこと、ところが最終意見を表明することゝなつた三月一七日の第一六回委員会に至つて組合側委員は、「事案の解明がいまだ不充分で意見発表は不適当である」或は「委員会付議を撤回させるべきである。」或は「団体交渉によるべきである。」との意見を表明し、処分の賛否に対する直接の意見を表明しなかつたこと、会社側委員は申請人に関する部分以外において若干の修正をして処分支持の結論を出したこと、そこで懲戒委員会としては同年三月二〇日をもつて会社に対し、審議経過を略記して会社側委員、組合側委員の意見を付し、意見不一致として答申をしたこと。

4、そこで以上認定の手続経過による委員会答申を得てなされた本件懲戒処分が権利の濫用と認めうるか否かについて考えるに判示のとおり懲戒委員会が本件懲戒処分案の内容に立入つてその実質的審議をなしたのは結局三月七日から同月一七日迄の一一日間でありその間委員会の期日は第一〇回から第一六回に至るまで合計七回開かれたに過ぎず右の具体的事案の審議期間、回数と懲戒処分該当者が申請人ら四名を含む合計三五名でありその該当事件数は合計八二件の多きを数えるものであり且つその内容はいずれも可成複雑なものであることを彼此考えると、右審議はその結論を出すにいささか早急に失した慊いがなかつたとはいえない。然しながら判示のとおり、右の懲戒事案はいずれも争議終了後の就業に際し、またはこれに引続いて発生した事案で、各事案に共通する問題として、事案の取り上げ方、組合運動との関連等について既に或る程度の期間回数を充当しているのであり、また右処分案について一部は委員会において修正の結論を出しているのであるから、被申請会社において該委員会制度存置の趣旨又はその手続を全く無視したものと解することはできず、且つ前示手続が早急に失したと解すべき点も前記認定の如く右委員会に懲戒処分案が付託されたのは一月三一日であり、その答申が三月二〇日であるにかゝわらず、第一回の委員会は組合側の都合等により遅延して二月一三日に至つたこと、開催せられた二月一三日の第一回以降三月五日の第九回の間結局その処分案の実質的審議に入り得なかつたのはいずれも組合側委員がその先議を主張して譲らなかつた疑義解明問題等の論議に荏苒時間を費したものであることを考えれば、審議係属期間は短かきに失したものとはいえず、具体的事案審議の期間の短かきに失した責任の一半は申請人らが王子労組の組合員として自らの権利を擁護するために選任した組合側委員のかような態度に存することも考慮すべきでありその責は単に被申請会社のみに帰せしめらるべきではなく結局右組合側委員引いてはそれを選任した申請人らもこれを負うべきものといわなければならないのであるから被申請会社の本件解雇は解雇権の濫用であると迄認めることは出来ない。

従つてこの点についての申請人らの主張は理由がない。

二、懲戒権適用除外について。

1、次に申請人らは前記解雇事由とされた行為はいずれも王子労組の当時の一般的方針乃至具体的指揮に基いてなされたものであつて集団的労働関係の一環としてなされた行為であるから会社従業員という個別的労働関係を規律する就業規則の適用がなく従つて又就業規則による懲戒処分もなすことを得ないものであるから本件懲戒処分は無効であると主張している。

2、しかし組合員が組合の一般的ないし具体的指示に基いて組合の団体行動の一環としてなした行為について、個別的責任評価が許されないとする申請人らの右主張は、当裁判所はこれを採用することができない。蓋し、組合が集団として経営者との間に交渉して得られる権利ないし利益は勿論集団としての組合と経営者間の関係として把握すべきであるけれども、組合員のなす具体的な行為は、抽象的な団体の行為の一環として評価されるべき部面のみではなく、常に自由意思を持つ個人としての行為として評価されるべき部面を有するものと解するのが相当である。したがつてその部面における行為の意味結果を、集団的組合の行為としての評価と別個に評価することになんら矛盾がないのみならず、行為者個人がその行為の結果について原則的にその責任を負うべきことは当然のことゝいうべきであり、労働組合法第一条、第七条等の規定も凡そ組合活動である以上すべて正当なものとして、規定したものではなく、その正当なものに限つて行為の違法性を阻却すると規定したものと解すべきである。

よつて組合活動の故をもつて懲戒処分の対象とならないとする申請人らの主張は採用できない。

三、懲戒権の濫用について。

1、次に、申請人らは、本件解雇事由該当行為は被申請会社と王子労組の大規模な争議行為後の就労に際して為されたものであつてそれは当時の被申請会社の幾多の労使間の信頼に反する態度が直接間接の原因となつているものであるからそれを申請人らのみの責に帰して懲戒処分として解雇したのは権利の濫用で許されないと主張するので以下判断する。

2、先ず昭和三三年一二月一四日までの被申請会社王子労組間の状態について、証人海堀の証言によつてその成立を認め得る疏乙第九号証、その成立に争のない疏甲第一四、第七二、第七三、第七六、第七七号証、疏乙第一、第二号証、第七号証の二ないし四、同号証の六乃至一四、同号証の一六乃至二一、第八号証の一、二、第一一号証の四、五、同号証の七、第一二号証の二、三、同号証の七、同号証の一二、一三、同号証の一六、第一三号証の一、同号証の三、四、同号証の六、同号証の一一、同号証の一三、同号証の一六、その態容記載内容によつてその成立を認め得る疏甲第七号証の一、二、第八六乃至第九一号証、疏乙第一五号証の一乃至九、同号証の一一乃至二二、同号証の二四乃至四六、第四六、第四七号証、証人宮崎府央の証言によりその成立を認め得る同第一六号証に証人海堀、同宮崎、同池田元男、同宇佐吉雄の各証言を綜合すると概略次のような経過があつたことを認めることができる。

組合は昭和三三年二月二八日会社に対し賃金等の増額要求を行い、会社側の操業方式に関する就業規則一部改訂を伴う回答を不満として、同年四月二四日以降五月七日までの間数次の部分スト、時限スト等を実施した。ところが同月一七日会社側は操業方式についての組合側の協力を前提として給与等の増額請求について更に譲歩をしたけれども、同時に同年六月一〇日をもつて有効期間満了となる協約について、ユニオンシヨツプ条項の削除を含む改訂の申入れをした。組合は右協約の改訂案は承認できないとし結局同年六月一八日以降無協約状態に入つた。その間組合は六月一〇日に夏季一時金の要求を提出したが、いずれも解決せず、同年七月一八日から組合は無期限ストライキに突入した。同月末頃から組合の脱退者が遂次増加し同年八月八日約八〇〇名をもつて新組合が結成された。他方組合は昭和三二年九月第一九回定期大会において昭和三三年度の組合活動方針として全国紙パルプ産業労働組合連合会の闘争方針を容れ、苫小牧工場においても各職場において組合員の団結を固め、協約等によつて定められた従業員の権利が守られているかどうかを点検し、職場における労働条件について会社側の職制の圧迫、組合活動に対する圧迫等について検討し、更に職制制度の民主化を図ること、及び職場で生じた問題については組合執行部を通じて会社側に折衡する外、職場自体で解決し得るものは積極的にその職場の組合組織で討議し、場合によつては職場要求として担当部課長等に交渉する所謂職場闘争を指導方針として採用してきた。そして新組合発足後は特に脱退者に対する組合復帰の運動が重要視せられた。ところで会社は昭和三三年八月一七日新組合と生産再開の議事確認書を取交し、就労命令を出して就労させようとした。そこで争議は益々深刻化し就労と就労阻止のための衝突が激化して愈々暴力化し、同年九月当裁判所による工場入出構に対する妨害排除の仮処分が出されたが、その執行に当つても王子労組組合員の新組合従業員の就労阻止のための暴力行為が行われた。同月一五日以降会社側は新組合従業員によつて一部生産再開を強行したが、組合は新組合従業員の工場の出入構を阻止し、新組合従業員は工場内籠城を余儀なくされた。そして同年一一月八日中央労働委員会中山会長から会社組合双方に対し職権あつせんをなす旨の通知がなされた。そして更にその存在並びに成立に争のない疏甲第一七号証、疏乙第四、第五、第六号証、証人海堀の証言によつてその成立を認め得る疏乙第一〇号証と右証人の証言によれば、昭和三三年一一月二一日中央労働委員会中山会長から労使双方に対し職権あつせんをなす通告があり、同月二二日双方そのあつせん案を承諾したこと、その趣旨は争議の焦点であるユニオンシヨツプ制については望ましいが現在労使間の信頼感が失われている以上全部容認は困難であり現在新組合が存在するので、とりあえず昭和三四年三月三一日を期限として冷却期間を置くこと、あつせん案が受諾された時は直ちに就労協議に入ることを骨子としたものであること、翌一二月五日更に中山会長から、同月九日を期して組合はストを解き、会社はロツクアウト、立入禁止を解除すること、これに先立ち組合提出の平和回復についての具体的条件について協議すべきことの申入れがあつたこと、ところが就労方法について、組合は団結の破壊を惧れて一斉就労を主張し、これに対し会社は分割就労を主張して妥結せず、同月八日再び中山会長から仲裁裁定が提示され、双方当事者は九日にスト及びロツクアウトを解除し同月一四日までを休養期間として闘争のための施設を撤去することゝし、就労については同月一五日以降一〇日間操業準備期間として操業可能の職場は平常通りの方式で勤務し、その他の職場は職制の指示による要員をもつて整備点検を行う旨を含むものであつたこと、会社及び組合は右の裁定に基いて就労協議をなし、同月一五日から就労することに決し同日午前七時から争議状態を止めて就労に入つたことを認めることができる。

3、右の認定のとおりであるから、なるほど申請人等の主張のとおり争議終了時においては、申請人等を含む王子労組員と会社側又は同新労組員間の対立感情は極めて尖鋭化されていたことはこれを推認し得るし、中山あつせんによつて就業開始をなすに至つた時も、いまだ当事者双方に深刻な不信感があつたこともまた容易にこれを窺知し得るところであり、また、その成立に争のない疏甲第一三号証の一、二、四、第三一号証、第八四号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認め得る第八号証、第一〇号証の一、二、第九〇号証、第一〇八号証、証人畠山祐治の証言に徴すると被申請会社は新組合の誕生に際してはいちはやく、旧組合との対立を声明すると同時に新組合に対する協力を表明して新組合員を援助して有利な取扱をなすかを疑わしめる態度を示し、操業開始後も中山あつせん案、仲裁裁定、並びにこれに基づく諸協定に対する違反を疑わしめる態度を示したのみならず、前示第二、2(六)認定のとおり職制である斎藤係長が部下の新組合員である松浦憲保のために虚偽の出退社の時刻をタイムカードに打刻してやる等その差別的取扱いを疑わしめる各行為をなしていることを認めることができる。

しかし本件事案はとにもかくにも双方当事者合意のうえ争議を終了させ、円満な操業の開始を約した後の行為でありいわば双方ともに平和状態を醸成する努力をなすべき期間内の行為であるから会社側の不当な行為に対しては組合執行部を通じての交渉をなすべきが原則であつたものと解すべきである。ところが申請人らはかかる時期において判示のような行為を反覆して行つた外更に被申請会社の主張する解雇事由中懲戒解雇基準には該当しないとして排斥された申請人五十嵐、同田村に対する解雇事由2(イ)及び(ロ)についても前掲疏乙第二三号証の一、第五一号証、証人松浦憲保の証言を綜合すると、昭和三四年一月七日午前六時頃から申請人五十嵐が調木係休憩室において申請人田村をはじめ王子労組組合員約五〇名とともに話し合いと称して右松浦を取囲み申請人田村らの組合員は口々に松浦に対し「組織をわつた者は殺人罪より重い、殺されても仕方がないぞ」「後から鳶や木ツ端がとんで来て怪我をしても文句を言わないという一札を書け」「我々が勝つているから貴様を大目に見ているのだ。これが我々が負けていたら一ぺんパーにやつつけてやる」などと脅迫し松浦が午前七時頃帰りかけようとすると申請人五十嵐は「待てまだ話が済んでいない」といつて松浦の左腕を掴み、また松浦の前に立ち塞つて同人の胸を押して無理に部屋の隅迄押返えして同人の退室を阻止するなどの暴行を加えたとの事実を認めることができ、又成立に争のない疏乙第一三号証の三七、証人松浦の証言により真正に成立したものと認められる同第二三号証の二、前掲同第五一号証及び証人松浦の証言を綜合すると、申請人五十嵐は一月八日午前七時頃松浦が右調木課休憩室に来たところ同人の正面から両肩に手をかけて同休憩室の奥の方え押しやり同所で申請人田村をも含む王子労組組合員とともに松浦を取囲み、午前八時二〇分頃迄「お前は昨日のことを上司にあることないこと告げ口したのだろう」などと申し向け、更に松浦の両脇をかかえて長椅子の上に立たせ申請人五十嵐は「昨日のは話し合いなのだから上司に吊し上げと報告したのは誤りであつたと謝罪せよ」と強要し、申請人田村は他の従業員らとともに松浦に対し「何をだまつているんだ。返事をしないと本当に吊し上げてやる。」と脅迫したとの事実を認めることができるのであつて、以上の各行為と上記認定の判示行為の態様並びに操業に対する重大な影響を考えれば前示のような争議経過、当事者間の不信感、会社側の行為等があつたとの事情もなお本件懲戒処分をもつて会社の権利濫用と認めしめる事情とは解し難いところであり、他に右処分をもつて権利の濫用を認めうべき資料はない。

四、不当労働行為について。

更に、申請人らは、本件解雇は被申請会社のなした不当労働行為であつて無効であると主張するので、この点について判断する。

1、申請人らが本件解雇事由ありとされた当時いずれも王子労組組合員であつたこと及び申請人五十嵐が中部地区委員長、申請人田村が苫小牧支部委員、申請人荒田が苫小牧支部執行委員兼原動部門委員長、申請人荒が原質部抄取班職場委員長の地位にそれぞれあつたことは当事者間に争のないことである。

2、而して申請人らの所属する王子労組と被申請会社との間の争議の経過については前記認定のとおりであるが右の事情から考えると申請人らが王子労組の団結を固めるため、組合の職場組織の会合を催し、脱退者に対する組合復帰の説得をなし、或は職制に対しその権限内の職場における労働条件、環境設備について折衝をすることはそれ自体は同組合員の団結のため又はその利益のため必要な活動であり且つ組合の指導方針に従つたものであつたということができるであろう。

3、而して申請人らの判示行為について申請人らはこれを右趣旨に基づいてなしたものと主張するけれども、右行為は具体的には前掲判示のとおり多くは相手方に対する暴行又は脅迫の程度に達してその業務を妨害しているものであり或は正当な上司の業務命令に違反して職場の業務の運営を阻害する結果を生じているものであるから右行為はその目的は組合のためのものであつても争議の終了後においてはいずれも企業秩序との関係においては組合運動の正当な活動として目される限度を越えたものといわなければならない。したがつて右の各行為を解雇事由とする本件解雇は申請人らの正当な組合活動をもつて解雇事由となしたものと認めることはできない。

4、次に申請人らは右解雇は王子労働組合の弱体化を目的とした行為であると主張するけれどもその主張のように被申請会社が本件処分によつて組合の弱体化を直接に計る意図を有したとの点はこれを認めるに足りる資料はない。勿論前段認定の諸事情並びに申請人らの組合における地位、判示各事由における申請人らの活動状況を考慮すれば本件懲戒処分によつて当然それだけ王子労組の活動が弱体化され、またはその組合員の活動に対する牽制となり引いては組合活動全般迄も弱体化する結果をもたらすことのあることは充分推測し得るところであるけれども、しかしそれは本件懲戒処分の真の意図がいずれにあるにかゝわらず、本件処分事由として掲げられた事実によつて本件懲戒処分がなされたという事実自体から生ずる影響であつて、その影響があるからと云つて直ちに会社が申請人ら主張の意図のために本件処分をなした証左と解することはできない。

よつて本件処分行為を不当労働行為であるとする申請人らの主張は理由がない。

第四、結論

以上判示したとおり申請人らにはいずれも被申請会社の定める就業規則第三〇条の解雇基準に該当する行為が認定せられ且つその態容を考慮すれば申請人らに対してなされた被申請会社の本件解雇はいずれも理由があるものといはざるを得ない。従つて申請人らの本件申請は結局被保全権利について疏明のないことに帰するからいずれもその必要性の点につき判断するまでもなく理由がない。よつて本件申請はこれを却下することゝする。尚申請費用については民事訴訟法第八九条第九三条第一項本文を適用して申請人らの負担とする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 小河八十次 武藤春光 福島重雄)

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